View of the World - Masuhiko Hirobuchi

July 28, 2005

3. 「使命感」が根底になければ外国語は上達しない -世界のツボ

 インターネットの時代には英語を読み書きする能力が不可欠だとか、国際社会でのビジネスには英会話能力は絶対に必要だとさかんに言われている。こうした風潮を受けて真剣に英語をマスターしようとする若者や中年のビジネスマンが増えている。
 だが一方では「英会話を習っても話すべき内容が見つからず、何も話せない」という声もよく聞く。
 今回は人が本当の語学力を身につけるための「動機」について書いてみたい。
 まず世界のトップリーダーたちの場合である。いま主要先進国の会議に出席する外相で、英語を話せない人というのはちょっと見当たらない。残念ながら日本は例外である。
 現代の外交では国内のみならず国際世論の支持を得ることが不可欠である。そのためには唯一の国際語である英語で意見を述べ、各国のテレビを通して民衆の理解と支持を得る能力はリーダーの必須の条件である。彼らは「語学力によって国益を守っている」のだ。
 彼らが英語をマスターしたのは「教養の一部として」であり「諸外国の指導者や民衆と心をつなぐ」ためである。
 志は「実用英語」などよりはるかに高いところにある。
 彼らの胸中にはまたドイツの文豪ゲーテの有名な一言が等しく刻みつけられている。
 「外国語について知らぬ者は自国語についても知るところがない」というものだ。
 この言葉の重みをもう少し考えてみる必要がある。逆もまた真であり、「自国語をおろそかにする者は外国語もできない」のだ。
 だが昔から日本には「外国語なんかできなくて当然で、できる奴が特殊なのだ」という思想があり、会社などでも「英語使い」という呼び方が横行した。「交渉も判断も俺たちがする。英語使いは通訳だけしていればよい」という発想である。ゲーテの思想とはあまりにも遠い。こうした考えが支配する会社の多くは確実に衰退に向かっている。

毎日、英語のテープを聞いた盛田氏

戦後の日本で英語の達人とされた人々の多くは私企業の社員だった。社内の無理解に悩みながらも彼らは「草の根の庶民の一人ひとりが心のふれあう付き合いをすることが世界の平和につながる」と信じていた。そのためには英語によるコミュニケーション能力は不可欠である。「戦争は時に、相手国民への誤解と偏見から生まれる。政府やマスコミは相手国への憎悪を煽る。そうしたものに惑わされず、他国のメディアからも情報を仕入れ、生身の人間同士の付き合いをすることが平和への道だ」と彼らは思いつづけた。
 こうした思いがあれば英語を学ぶ迫力は違ってくる。有名な詩をそらんじ、独立宣言を丸暗記し、ポップソングの歌詞や芝居の名せりふが頭にしみこむのは当たり前であり、何の苦痛もなかった。
 パーティ会場の片隅で外国人相手に落語の面白さを語り、合戦前夜に優雅に笛を奏で、香を焚きめて出陣した若き平家の美意識を説明した。彼らは無名ながら、誇り高い民間外交の担い手たちだった。
 そうした「志」の頂点に立つのがソニーの繁栄の基を築いた故盛田昭夫氏だった。ご自身の英語を常に「下手だ」と謙遜し毎日テープを聞きつづけた。敗戦の瓦礫の中で、どうすれば日本が生きていけるかを真剣に考え、自社の利益だけでなく、もっと大きなもののために献身しておられた。「根底に使命感がある人の英語は迫力が違う」という見本のような方であった。

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