View of the World - Masuhiko Hirobuchi

July 29, 2005

4. ボビー・ジョーンズに見る「紳士の条件」 -世界のツボ

4月になるとゴルファーは興奮する。世界4大トーナメントのトップを切って「マスターズ」が米ジョージア州オーガスタで開催されるからだ。
 残念ながら私はオーガスタでプレーしたことはない。テレビ局の特派員として、4年もニューヨークに住みながらである。たぶん仕事に熱中しすぎて(?)いたのだろう。
 このオーガスタ・ナショナルゴルフクラブを自ら設計造成し、マスターズ・トーナメントを創設したボビー・ジョーンズは、生涯アマチュアだった。だがどんなプロも彼にはかなわなかった。
 とくに1930年に成し遂げた「年間グランド・スラム」は、史上空前の快挙だった。この年彼は全米オープン、全米アマ、全英オープン、全英アマチュアの4大トーナメントにことごとく優勝した。これがいかに凄いことかは、だれにでも容易に想像がつくだろう。だが彼の真の偉大さは記録には表れない行動の中にこそあると思う。
 時は1952年、所はマサチューセッツ州ウォスター・カントリークラブ、試合は全米オープン選手権だった。第1ラウンドの11番ホールでジョーンズは第2打をグリーン脇の深い芝に打ち込んだ。ボールは浮いており、打ちやすく見えた。彼は3打目をグリーンに乗せワンパットでこのホールを終えた。だれの目にもスコアは「4」だった。だがホールアウト後に彼が全米ゴルフ協会(USGA)の役員に告げたスコアは「5」だった。役員は「4」ではないかと問いただした。だがジョーンズは「3打目を打とうとする直前にボールが動いたように見えた」と語ったのだ。

解釈が分かれる時は「自分に不利に」

 たしかにルールでは「一度打とうとしてクラブを振り上げたあとに風などでボールが動いた場合は、1打として見做す」と定められている。しかしUSGAの役員はもとより、グリーン・サイドにいた誰の目にもボールは動いたようには見えなかった。テレビ中継などない時代である。ジョーンズが自らに「罰打」を科さなければ、スコアはまぎれもなく「4」であった。しかし彼は当たり前のこととして「5」を申告した。
 72ホールを戦い終わった時ジョーンズはウィリー・マクファーレンと首位を分けていた。翌日18ホールのプレーオフが行われた。だが決着はつかずもう18ホールのプレーオフに持ち込まれた。運命の18番でジョーンズは2打目をバンカーに落とし、この大トーナメントの優勝を逃した。
 試合後、多くの人々が「第1ラウンドのあの自己申告さえなければ」と口にし「あなたは正直すぎる」と言った。
だがジョーンズは「あなたは銀行強盗をしなかったからといって人をほめたりはしないだろう」と淡々と語った。ゴルフは「正直さ」がなければプレーできないとされ「紳士のゲーム」だとされている。
 彼がアメリカ人のみならず世界の人々に与えた影響ははかり知れない。「フェアプレーとはどういうものか」「紳士とは何か」を、人々の心の網膜に焼き付けたのだ。
 解釈が微妙に分かれる局面では「自分に不利になるように数えれば間違いない」というのがゴルフの鉄則である。これはなにもゴルフだけに限らない。「紳士淑女たる者の生き方の原則」なのである。
 明らかに自分の失政であることでも、なんだかんだと言い訳をして責任逃れする要人が多い昨今、ジョーンズのような本物の「紳士」に会いたいという思いは強い。
(「SAPIO」2001年3月:蛇足だが、こうした「紳士」は教育によって生まれる。日本の家庭も社会も大学もマスコミも、こうした紳士を養成する理念というか「空気」が決定的に欠けている気がする)

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COMMENTS

1 : 内海喜美子 : August 6, 2005 01:50 PM

暑中お見舞い申し上げます。学校では、なかなかお会いできませんが、吉川さんから、先生の近況をお聞きしまして、ホームページを知りました。早速拝見させて頂きました。
とてもためになる事ばかりで、今度は淑女の条件をお願いします。私は囲の中の蛙で年ばかり経って今日に至ったので、もっと常識を知りたいと思っています。共栄大学に入って2年目ですが、覚える事の多さに比べ、忘れる事の多さに滅入ってしまう毎日ですが、皆の倍、頑張ろうといつも肝に銘じています。アリの一歩を目標に、昨日より今日が少しでも進歩に繋がれば嬉しいです。
まずは、元気に通学し、若い人の足でまといにならないように頑張りたいと思います。今後とも宜しくご指導下さいます様にお願い致します。
夏休み、先生のホームページでお会い出来る楽しみが出来ました。


[form Hirobuchi]

内海喜美子様

さっそくHPをご覧いただきありがとうございました。「学生へのメール」は、「継続して読んでいるうちにかなりの実力が付く」ことを願って書いているものです。「脳を鍛える」「物事を考える訓練をする」ことが狙いです。とはいえ、楽しさもいっぱい入っているものにしようと欲張っていますので、ときどきご覧になってみてください。週に2度は、新しい記事を入れてゆくつもりです。私は6−8日の3日間、秋田と青森の祭を観に行ってきました。花火とねぶたを乗せた船と豪華客船「飛鳥」がミックスした青森の夜は印象的でした。この暑さにめげず、どうかお元気でお過ごしください。