View of the World - Masuhiko Hirobuchi

October 10, 2005

アメリカのナニワブシ -学生へのメール

去年の今ごろは、アメリカの大統領選挙で日本のマスコミも盛り上がっていました。この一連の報道や論評の中に「アメリカの政治にもナニワブシはある」ということを、どなたかが書いていました。そこで思ったのは、今の日本の若者たちはまずほとんど「ナニワブシ(浪花節)」なるものを聴いたことがないだろうということでした。私のゼミでは斉藤孝さんの『声に出して読みたい日本語』を一時使っていたので、あの中に出てくる「旅行けばぁーー駿河の国にぃ茶の香りーー」という名調子を覚えている人もいるでしょうが、まず90パーセントの学生は浪花節の何たるかも、その精神的・情緒的意味やインパクトといったものも理解していないと思います。そういう読者はいくら「アメリカの政治にもナニワブシはある」といわれても、何のことだかさっぱり分かりません。今の日本では、重大なことを伝えたつもりでも、相手にはまったく通じていないことが多いのです。この筆者が言いたかったことは、「政治というのは政策や理屈だけで動くものではない。もっと人間の心を揺さぶる感動や情緒的なもので動かされることが多い。日本の浪花節が、人情の世界を歌って大衆の支持を得ているように、アメリカの政治も情緒的なもので動かされることは多々あるのだ」という意味でした。こんな解説を付けなければ、同じ日本人同士で話が通じない。情けないことですが、これが現実です。浪花節も教養の一部であり、日本が生んだ大衆芸能の一つなのです。旧世代の先輩たちと対話をするためにも、ナニワブシの一つや二つは聴いてみたいものです。

[Post a comment]

COMMENTS

1 : tiakujyo : October 10, 2005 10:52 PM

[こんな解説を付けなければ、同じ日本人同士で話が通じない。情けないことです]   廣淵先生、ごめんなさい。私こそ、情けない思いをさせてる者です。 あゝ、こんなことだったら、幼いうちから、もっともっと学ぶ大切さを分かっていたかった。 それにしても、知ってたいこと、体験したいことがいっぱいすぎて、どうしたらいいのか・・・?

2 : ラ・マンチャの男 : October 10, 2005 11:10 PM

tiakujyo様 コメントをありがとうございます。しかしこのメールがご負担になってしまったようで申し訳ありません。私が特殊なのかどうかわかりませんが、私はオペラやミュージカルの名場面も浪花節の有名な一節もともに大切と思っています。それよりもこの記事の狙いは「ナニワブシ」という単純な日本語そのものの意味が通じなくなっている現状について語ったものなのです。本当に日本語は通じなくなっています。「なんとかしなければ!」と焦りますが、一人の力ではどうにもなりません。

3 : mix : October 10, 2005 11:30 PM

浪花節ですか?先生の学生よりも大きな我が子も、たぶん知らないでしょうね。
そう、浪花節に限ったことではないのです。日本人なのに日本のことについて何も知らないのです。子どもたちのことを言う前に私自身が。それは外国に行くと特に強く感じます。
「命の風」に出てくる女性も、そう言って日本に帰ってから空手習ったというようなこと書いてありました。
最近、見る機会ができたNHKの子供番組に「にほんごであそぼ」というのがあります。これはかなり大人も楽しめるいい番組だと思っています。ここで浪花節が取り扱われたかどうかは知りませんが、これを見て育った子供たちが、ちょっとでも日本語や日本文化に興味を持ってくれたらと祈るばかりです。

4 : ラ・マンチャの男 : October 11, 2005 11:18 AM

mix 様 コメントをありがとうございます。ご指摘の「日本人であるのに日本文化を知らない」という現象はあらゆる面で起きています。落語は一時期よりは面白さを理解する若者がふえてきたそうですが、浪曲となると「旧いもの」「価値なきもの」というふうに思い込んでいるか、あるいはそんなイメージさえもない可能性があります。高校時代にアメリカに留学したきわめて優秀な日本人女性(35歳、文学博士、大学専任講師)は、面接で日本文化のことを聞かれてなんにも答えられず、恥じ入る思いをした。その後は真剣に日本について学びなおし、ついに英語で落語を演じるようになったと語っています。これはちょっと例がよすぎるでしょうが、せめて「ナニワブシ」の一つ二つは聞いて、「日本人のDNAの中にある情緒的なるもの」への理解を深めてほしいです。これはマーケティングなどにも役立つと思うのですがーー。

5 : 湖の騎士 : October 11, 2005 11:23 AM

mix様 追伸です NHKの「にほんごであそぼ」は私もときどき見ています。非常にすぐれた番組だと思います。これを見て育った子供は、日本語および日本文化について、相当豊かな感性を育むことができるようになるでしょう。よい番組を思い出させていただきありがとうございました。

6 : fujimino : October 11, 2005 12:11 PM

確かにその傾向は顕著ですね。
浪花節等の芸能に限らず。日本の持つ文化そのものが日々捨て去られて行っているのではと常々思っています。
日本の歴史も、年号だけの暗記に走り、内容は全く理解されず。
長年続いてきた、素晴らしい風習も、忘れ去られてしまっています。

芸能にしても、歌舞伎、能、狂言、俳句、川柳などは、かろうじて維持されていますが、浄瑠璃、浪曲、講談、しんない、とどいつ、端唄、小唄などは風前の灯火です。

日本が生み出した素晴らしい芸術の数々と思うのですが。

やはり子供というより、親たち自身がそれを捨て去ってきた事と、僕たち世代が、それを子供達に伝えない事が根元にあるのかも知れませんね。

7 : ラ・マンチャの男 : October 11, 2005 11:35 PM

fujimino様 衰退し壊滅寸前の日本文化について、fujimino
様も同じような危機感を抱いておられることがよく分かりました。小唄がよみがえるのはちょっとむずかしいかもしれません。政財界のおえらがたが、小唄の技(あるいは芸)を競い、高級料亭で唸って(?)いたというイメージがつよすぎたために、一般サラリーマンまでが「自分たちには縁なきもの」と思ってしまったためです。これをお師匠さんについて習うというのも大変でしょう。そこへゆくと、浪曲の場合は、月に1度くらい日曜日にNHKの総合テレビで放送する浪曲大会を見ているだけでも、「ははあ、こんなものだな」ということが分かります。それからメロディーはともかく「どどいつ(都々逸)」の歌詞の面白さは、ぜひ若者にも分かってほしいと思っています。大体教員の皆さんがそうした面白さを理解していないことが多いのですがーー。

8 : HANA : October 13, 2005 08:23 PM

義務教育の指導要領が改訂され、「総合学習」が導入された時「邦楽」を取り入れた学校もあったとか。
でも、先生を探すのが大変で頓挫したそうです。

ただ、この頃テレビ番組を見ていると「日本語」をテーマにしたものが増えている気がします。斉藤孝さんなども進んでテレビに出ていますよね。

少しずつ日本語への郷愁のようなものが私たちの中に芽生えてきているのではないでしょうか。
それこそDNAが私たちの中の「日本的なもの」を呼び起こしているのかもしれません。

9 : ラ・マンチャの男 : October 13, 2005 10:45 PM

HANA様 
非常に貴重なコメントをありがとうございました。せっかく日本文化になれ親しむ方針を固めても、先生がいなくて邦楽の時間が頓挫したというのは悲しいですね。でもそんなに大真面目に本格的にやらなくても、大体の「感じ」を教えればあとは生徒さんのほうで興味を持つと思うのですがーー。私もゼミの学生には「白波五人男」のせりふや浪曲の一節などを披露したことがあります。すこし恥ずかしいですがやむをえませんでした。斉藤孝さんはこういうジャンルの大切さを強調した点で大変な功労者ですね。少しずつ日本語のよさに皆が目覚めて、もっと世代間のコミュニケーションが成立するように願っています。

10 : エセ男爵 : October 15, 2005 02:12 AM

広淵先生 お久しぶりです。
といってもコメント付けの「ご無沙汰」でして、いつも伺いしております。
久しぶりに「語学関係?」の記事を書きましたのでトラックバックさせてください。
宜しくお願いします。

11 : ラ・マンチャの男 : October 15, 2005 10:04 AM

エセ男爵様 お久しぶりです。私もときどき貴「酔狂日記」にお邪魔しているのですが、書き込みにまで至っていませんでした。本日あらためておうかがいし、日本の現状に対するお嘆きと、英語表現についての並々ならぬご見識を拝見しました。「言葉がよみがえれば日本は再生する」と私は思っています。言葉・表現の乱れは精神の乱れ・価値観の乱れが原因です。幕末から明治の初めに日本を訪れた外国人は、いずれも日本人の心・道徳観・価値観に深い感銘を受けました。言葉も今よりはずっと美しく、深みのあるものでした。

12 : ほほほほ : October 18, 2005 02:35 PM

こんにちわ、初めての書き込みになります。自分は浪花節の事は良くは知らないけれどもゼミで一つやった事を覚えており、大体の雰囲気は分かります。言いたい事をストレートに相手に伝えるその為の作品また表現方法でしょうか。間違っていたらすいません。回りくどい言い回しになってしまい物事をストレートにきちんと相手に伝える事が出来ていないのが日本人の悪いところだと思います。それに違ってアメリカ人は非常にストレートに相手に気持ちを伝える事がうまくみんな自分に自信を持っている。このようなところを見習って昔の文化も大切にしていくべきだろうと思います。

13 : ラ・マンチャの男 : October 18, 2005 11:24 PM

ほほほほ様 初めての書き込みありがとうございます。ナニワブシについて「大体の雰囲気は分かります」とありますが、ナニワブシというのは自分の感情をストレートに伝えるものではありません。その辺の誤解をまず修正してください。本文の中に書いてあるように、浪花節というのは「情(=人情)」を基本にした世界で、「裡=理性、理屈、理論)」を基調にした世界ではありません。どういう人物がどういう活躍をするのか、それがなぜ大衆の支持を得るのかを、実際に浪曲を聴いてみて確かめてください。計り知れないほど大きな心の財産になるでしょうから。