View of the World - Masuhiko Hirobuchi

January 06, 2006

花は寒に耐えて開く -学生へのメール

いま私の瞼(まぶた)には苦しんでいる多くの若者の顔が浮かんできます。知っている顔もあれば、まだ一度も会ったことのない顔もあります。株式市場を見ても、経営者へのアンケートを読んでも、日本は長い低迷から脱し経済はこれから上昇に向かうことが予感できます。しかし、まだ就職の決まっていない4年生もいれば、内定はもらったものの果たしてこの会社は自分にふさわしいのかと真剣に悩んでいる学生もいます。人間の幸福感や充実感は、統計や数字でははかれないのです。経済全体はよくなっても、個々の人間が抱えている悩みは昔もいまも絶えることがありません。
しかしこうした状況の中で、自分を奮い立たせ力を与えてくれるイメージがあります。
それは「花は厳しい寒さに耐えて開く」というイメージです。花は春になるといっせいに開きますが、みんな長い冬を耐えているのです。いまがどんなに苦しくてもここでくじけてはいけない。耐えていればかならず春はめぐってくる。そう信じて「逆境よ、どんと来い!」という気持ちになることです。自分が逆境にあるときにこういわれても「きれい事」にしか聞こえないかも知れません。しかし逆境を乗り切るには、このイメージしかないのです。
いまや20世紀後半のアメリカが生んだ最も偉大な漫画家とされ、スヌーピーやチャーリー・ブラウンの生みの親として有名な故チャールズ・シュルツ氏は、若き日には何度も何度も自分の作品を出版社や配信会社から突っ返されました。のちにこれだけ多くの人に愛される作品を書いた天才の漫画を採用しないとは、まったく目の見えない編集者もいたものです。彼と契約していれば、その会社は以後50年余にわたりそれこそ何千億円という利益を得たでしょうに、無名の青年の才能を見抜く眼力が当事者になかったのです。
シュルツはかぎりない孤独と絶望感にさいなまれながら、それでも漫画を描くという夢は捨てませんでした。長い長い人生の冬でした。希望を見失いそうにさえなりました。しかし春はやがてめぐってきました。ニューヨークの配信会社にいる一人のベテラン編集者ジム・フリーマンが、彼の才能に目をつけたのです。1950年6月のある朝、セントトルイスから出てきた若きシュルツは、期待と不安を胸に小雨にけぶるマンハッタンのオフィスへと歩んでいきました。この日を境に彼は冨と栄光の世界へと入っていったのです。
「シュルツさんはえらすぎるよ。自分にはそんな才能はないですよ」と思うかもしれません。しかし、あの偉大なシュルツで「さえ」、作品の掲載を断られたのです。そう思えば、気持ちはずいぶん軽くなりませんか? 「自分のしている努力なんてはシュルツの努力にくらべれば物の数ではない」「自分が耐えている冬なんてシュルツの冬にくらべればーー」というふうに考えてみてください。これは全国にいる数え切れないほどの悩める若者に送る心からのメッセージです。

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COMMENTS

1 : シュローダー : January 7, 2006 12:37 AM

メールありがとうございました。
「花は厳しい寒さに耐えて開く」という言葉に、本当に勇気付けられます。シュルツさんのような大物が、そんな苦労を乗り越えてきたとは知りませんでした。それと比較したら、私の悩みなど大した事はありません。
私を採用したいという会社があると信じています。シュルツさんのように希望をすてません。

2 : 悠々 : January 7, 2006 12:57 AM

私の母の部屋の前に桜の大木があります。母の部屋は二階だから枝がすぐ目の前まで伸びてきています。その枝にはもう蕾がふっくらとふくらんでいるのが見て取れます。北風の吹きすさぶ中で着実に春に向かって準備を整えつつあるのです。
廣淵先生の仰るとおり、厳しい寒さに耐えて花芽を充実させているのです。
就職の内定している人も、そうでない人も、人生の先にある明るい明日に備えて、心身の充実をこの冬の間に行って欲しいです。
我が家の庭に、曼珠沙華(彼岸花)が植えてあります。この花の生態は変わっていて、何もないように見える地面から秋の彼岸頃になると突然ニョキニョキと茎を伸ばしてきて華麗な花を咲かせます。そのあと、葉が出てきて、冬の間は濃い緑の葉が乏しい冬日のエネルギーを吸収して球根に養分を蓄えます。そして春になる前に葉は枯れてしまい、秋までひっそりと地下で秋の彼岸を待つのです。他の植物が花を咲かせ葉を茂らせる時期には息を潜めていて、大方の植物が休眠している時に活動するのです。
人にも、大勢に背いて逆の生き方をすると言う選択肢もある訳です。と言っても昼間寝ていて、夜起き出せと言うことではありませんが・・・私はどうも後者に属する人間のようです。

3 : 湖の騎士 : January 7, 2006 11:48 AM

シュローダー様 この記事が心に火をつけたとしたら嬉しいです。だれでも冬に耐えているのです。シュローダーさんもがんばってください。

4 : 湖の騎士 : January 7, 2006 12:10 PM

悠々様 母上のお部屋の目の前に櫻の大木があり春になると満開の花が開くというのは、本当に美しい羨ましい風景です。親孝行をなさっていますね。私の母も櫻が大好きでした。足腰の弱った母を散歩に連れ出し、私は丸い木の椅子をもってついていき、道端に坐らせて櫻の花を愛でる母を見つめていました。もうずいぶん昔の話です。彼岸花が秋の開花まで葉を全部落としていて、突然ニョキニョキと地面に顔を出してくるとは知りませんでした。こういう知識もまた若者には貴重なヒントになると思います。ありがとうございました。そして締め括りは夜と昼を取り違えて(?)生活しておられるご自分のライフスタイルへと話を進めるユーモアあふれるお話しぶりに感嘆しました。最高のコメントをありがとうございました。

5 : tiakujo : January 7, 2006 02:15 PM

今これを読む前に、私のブログに、友人のうつ病(?)のことを書いてしまいました。 彼女がこれを読めたらどうかしらと、ドキドキしてます。 でも彼女の状況では、これを読んでねと言うのも負担になるのかもしれないし、、。

6 : 湖の騎士 : January 7, 2006 10:36 PM

tiakujyo様 貴ブログを拝見しました。書き込みをさせていただきました。ご友人のことは本当に気がかりでしょうが、人はひとつのイメージを心に描くだけで立ち直ることもあると思います。この記事に先立つ6月のある朝、セントポール・ユニオン駅からただ一人ニューヨーク行きの汽車に乗るシュルツ青年のイメージは私にかぎりない力を与えてくれました。一冊の画集を手に、希望と不安が錯綜する青年の胸の内を思うと、本当にくじけてはいられないという気になります。気分転換のためにもいろいろなブログを訪問することをおすすめになってはいかがですか?

7 : tiakujo : January 7, 2006 11:01 PM

パソコンはしてないけど、この記事をプリントして、FAXで読ませたいと考えたのですが、これも本人の顔の表情が見えないと、不安で、どうしたものかと、、、。

8 : 湖の騎士 : January 8, 2006 07:25 AM

tiakujyo様 こういう場合、あまりにもっともらしい宗教家の話なんかよりも、やはりさり気ない友人からのアプローチがいちばんだと思います。男の場合なら「背中への友情ある一たたき」という方法もあるのですがーー。あんまりつよくたたいてはいけない、じつにさり気なくーー。頭では分かっているのですが、いざ実行するとなるとためらいが先に来ますよね。

9 : cybridge : January 10, 2006 08:33 AM

景気のいいときには夏の時代、苦しいときには冬の時代ということをよく聞きます。シュルツさんのように、何か大きなことを始めてから成功した人には、ほとんどの人が冬の時代をすごしていると思います。ですから人生苦労した後には必ずいいことがあると思っています。

10 : 湖の騎士 : January 10, 2006 10:34 AM

Cybridge様 悪いことの後にはかならずよいことが来るーーと思うのはいいことですが、よいことを呼び寄せるためには強い意思力と「イメージ」が必要です。うまく行っている自分をはっきりと思い描いていると、幸運はぐっと身近になります。今年はよいイメージをはぐくんでください。

11 : 恭華留斐 : January 10, 2006 02:25 PM

就職がいよいよ間近に迫っている今日この頃、就職するということが、これまでの人生でないほどに楽しみで、自身を浮かれさせているようなところもありますが、同時に不安も積もってきています。一度ネガティブに物事を考えると止まらない性質で、信じられないほどに想像が膨らんでしまいます。これからは、ネガティブな考えが頭に浮かんだら、すぐにシュルツさんのことを思い出そうと思います。そして、ポジィティブに、前向きに考えていこうと思います。

12 : リッキー : January 11, 2006 12:11 AM

 内定が決まっている私も、不安と言われれば不安です。会社に入れば学生の時には考えもしない様な厳しい状況におかれることがあると思います。あと3ヶ月もすれば卒業し、入社です。間違いなく来るその日まで希望と不安が隣り合わせでいる今日この頃です。

13 : 湖の騎士 : January 11, 2006 10:29 AM

恭華留斐様 希望と不安が交錯するというのは、青春に特有の現象でしょう。いや、人間はいくつになってもそういうものかもしれません。この際シュルツさんのことが不安を和らげる大きな力になってくれるなら、この文章を書いた甲斐があります。セントポール・ユニオン駅からただ一人東部に向かう列車に乗った青年のことを考えて元気を出してください。

14 : 湖の騎士 : January 11, 2006 10:34 AM

リッキー様 不安にさいなまれない人間がいるとすれば、そいつはまちがいなくバカです。そう考えると気が楽になりませんか? しかし過剰な不安は必要ないと思います。「人間は内なる不安と戦いながら、何千年も生きてきたのだ」と、大きく考えることです。シュルツという大先輩がいて、この天才が自分の味方なのだと考えてみて下さい。幸福な出発を祈っています。