View of the World - Masuhiko Hirobuchi

March 25, 2006

イチローの扱いが大違いーー「文春」と「新潮」ーー -

WBCで大活躍したイチロー選手をテレビで観た人は、ほぼ一様に感動しました。これは「情報の仲介者」を入れないで、直接自分の目で見、耳で確かめた結果でした。どのテレビも新聞も彼には好意的であり、最大級の賛辞を送りました。ところが23日に発売された「週刊新潮」の3月30日号には、「熱狂『王ジャパン』の冷たい『舞台裏』」という5ページにわたる特集があり、その中に「『異様な躁』状態でチームから浮いていた『イチロー』」という記事が載っています。彼が「浮いていた」と語っているのは2人の「担当記者」です。おそらく大新聞かテレビ局の記者でしょう。その一人が「後半戦に入ると、他のメンバーは”お前は何様のつもりだ”と完全にシラケ切っていた」と語っています。
一方、ライバルの「週刊文春」はこれとは全く対照的です。こちらも「WBC王ジャパン全内幕」という5ページの特集を組み、その中で「イチロー『自腹』ロス焼肉店決起集会ーー初めはバラバラ日本代表を一つにした」という記事を大きく載せています。これによるとイチローは最大の功労者で、13日の夜、ロスアンゼルス市内の高級焼肉店を借りきり、世紀の誤審でアメリカに敗れてがっくりきている同僚たちを励まし勇気づけたというのです。会は3時間に及び、空気は盛り上がったそうで、しかもかかった費用約40万円はすべてイチローが自腹を切って払ったとのこと。この集会を知った日本野球機構(NPB)が30万円ほどを用意したといわれますが、イチローはそれを断ってすべて自分のポケットマネーで支払ったそうです。こちらの記事によるとイチローは「浮いて」いるどころか、同僚から熱い支援と尊敬を受けており、その後の日本チーム躍進の大きなきっかけを作ったことになります。グラウンドでチームを引っ張るだけでなく、選手の心の状態も掌握して元気づける「苦労人」であり「リーダー」という扱いです。
では、「新潮」と「文春」で、なぜこのような大きな違いが生まれたのでしょうか? 
報道は自由ですから、皆がみんな同じような礼賛記事を載せる必要はありません。「週刊新潮」は今までにも大新聞やテレビ局がなしえない数々のスクープを物してきましたし、貴重な情報の提供者であり、高い評価を得てきました。
しかしこのWBC関係記事に関するかぎり、「批判的な眼」で特集を構成しようという意思がまずあり、それに合うような取材をしていった可能性があります。これはあくまで「可能性」です。実際は白紙の状態で取材したのかも知れません。しかしなんといっても「イチローが浮いていた」という根拠は「担当記者」の言葉です。2人の記者が「そう言った」ということです。その一人が、チームメイトの言として”お前は何様のつもりだ”とシラケ切っていたーーと語ったとありますが、これは相当数の選手が言ったことなのか、それともイチローに反感を抱く1人、2人の選手が言ったことなのかが分かりません。「浮いていた」のはそういうことを言った選手だったかも知れないのです。さらにはその記者が、もともと今回のプロジェクトに批判的であったりイチローが嫌いな記者であった可能性は高いと思います。この特集の最後には「『長嶋ジャパン』なら出場したという『松井秀喜』」という記事が出ており、WBC出場を辞退したことで評価を下げている松井選手をかばう構成になっています。長嶋なら出場し、王なら出場しないというのも変な話です。
人間は化学変化するものです。たしかに一時期、イチローは浮いていたかも知れない。しかし、落ち込んだ選手を自腹を切って焼肉店に招待して気分を盛り上げ、グラウンドで率先してヒットを量産して選手を引っ張っていったイチローを見、さらには韓国を破りキューバを下して優勝した瞬間を味わった選手たちの気持ちは、10日ほど前とはだいぶ違っていたはずです。イチローのことを素直に「エライやっちゃ!」という思いが醸し出されていったのではないでしょうか。
今回の際立った二つの特集は、マスコミのあり方についてさまざまな問題を投げかけました。そして、イチローおよび王ジャパンに関するかぎり「担当記者」などという「情報の仲介者」を通さずに、テレビ画面だけから判断を組み立てた一般の人々の認識の方が正しかったというのが、数々の取材現場を経験してきた私の結論です。

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COMMENTS

1 : amia : March 25, 2006 08:28 PM

こんばんはー
イチローさんを巡る記事のお話、とても興味深く読みました。
どっちの記事も本当であると思うし、どっちの記事を買うか。
私はやっぱりテレビに写ったイチローさんの明るい笑顔とみんなを盛り上げていたという気持ちをプラスに取ります。
 10人いればいろいろな人がいますよね、意見の相違は仕方がないのかな。
 王監督、少し痩せたようで私にはそのことの方が気になります。お疲れかしら??

2 : カスミ草 : March 25, 2006 09:29 PM

私も、今までイチローは好きではありませんでしたが、
今回は見直しました。
これからもズーット応援するつもりです。
王と長島は現役時代から王のファンっだったので、さすが!!と思っています。
長島なら、負けていたと思います。
今日のテレビでも3試合目の韓国戦の前に王さんが自腹で選手、スタッフ全員、約60人にシーフード料理をご馳走されたとか。
今回の優勝で元気付けられた人は多いと思います。
それだけでも効果があったのでは!!
シーズンが終ってから開催されたら、選手の負担が少なくなるでしょうに。

3 : 悠々 : March 25, 2006 10:29 PM

マスメディアの報道姿勢には社によってかなりの違い(偏向)があると思います。
私の現役時代には、一番右翼寄りの記事を書くのは産経で、次が読売、朝日はかなり左寄り、と言った印象でした。
自民新報は問題外だし、赤旗は嘘は書かないまでも、矢張り偏向していると思えました。
それらの新聞を読み比べると、段々事の本質が見えてくるから、私は各紙に目を通すのが楽しみでした。
週刊誌にも色んな立場があるのでしょうね。
テレビ映像でさえ、撮影アングルが変われば、まるで違った印象を伝えることが出来ますから、恐ろしいです。
スポーツ中継は角度を変えて見せてくれたりして、割と公平な映像が見られると思います。
その限りでの印象ですが、イチローの行動は立派だったし、素晴らしい動きも見せてくれました。
為にする報道というのは許せませんね。

4 : 湖の騎士 : March 25, 2006 11:12 PM

amia様 この記事を興味深くお読み下さりありがとうございます。どっちの雑誌の記事を買うか、と一瞬考えたあとで「私はやっぱり」とご自分の意見を明確にしておられます。日本にはそういう方が多いのではないでしょうか。そしてご贔屓の選手を叩いたメディアに対して怒るのではなく「十人いれば」という大きな気持ちをお持ちのところがすばらしいですね。

5 : 直 : March 25, 2006 11:19 PM

こんばんわ。イチローのことは以前から好きでした。若武者のようだったのが、年ともに人間のスケールが大きくなってくるようで頼もしくおもいます。私は通勤の電車の中で両方の週刊誌の釣り広告を見ました。でも、その時には新潮が古くて優勝する前の記事を載せていて、文春は優勝した後で記事を載せたのかしらと思っちゃいました。テレビで試合や優勝後の選手たちの顔を見た後では文春の内容の方が、読者が読みたいと思うのではないかしらと思います。でももし優勝していなければ新潮の方の記事内容で納得するけれど・・・。野球も面白いしメディアも面白いですね。読む人が素直な心を持って自分で判断しなくてはいけないということですね。

6 : 湖の騎士 : March 25, 2006 11:26 PM

カスミ草様 王監督だから勝てた、長嶋監督なら勝てなかったと思うというご指摘は鋭いです。多くの人が漠然と感じていても言えなかったことをズバリと言ってくださった感じです。今まで好きでなかったイチロー選手を今回はテレビを通して見直されたというお気持ちもよく分かります。彼は実に自分に対して素直でした。観客に変に媚びたりせず、不要な笑いも面に浮かべず、自分の内なる基準にしたがって行動していました。近ごろこういう人は少ないですね。

7 : 湖の騎士 : March 25, 2006 11:34 PM

悠々様 いろいろな新聞を読み比べるのを楽しみにしておられたというのはさすがですね。たしかに併読しないと物事の本質は見えてきません。木曜に出るこの二つの週刊誌は、それぞれに高い評価を受けていますが、私はまったく違うトーンの記事を載せた週刊誌があるだけでも日本は自由でよいな、と思うほうです。昨年の総選挙の時は、大新聞もテレビも小泉支持みたいになってしまいましたが、ああいう「単色」は健全じゃないですね。イチローの扱いの際立った違いは、日本に複数の価値観が並立しうるということの証明かもしれません。ちょっと大げさすぎますか?

8 : 湖の騎士 : March 25, 2006 11:42 PM

直さま 非常に分かりやすいコメントで感心しました。たしかにもし優勝していなければ、新潮の姿勢が断然支持を得たでしょうね。文春の記事のほうが新しくて、新潮の記事のほうが古いというご観察も当たっていると思います。私も「新潮はだいぶ前に仕込んだ記事を捨てきれず、新しいのと差し替える時間がなかったのかも知れない」と思っていました。皆さんが直さんのようにメディアの裏を見抜く鋭い目をお持ちになれば、日本はもっと面白い国になるだろうと思います。

9 : 悠々 : March 26, 2006 09:38 AM

湖の騎士様
先生が仰せのように、日本で複数の価値観が存在しうると言うことは事実だと思います。
今回の週刊誌が取り上げた問題が、スポーツだったから、自由にものが言えたという事もあると思います。
しかし、マスコミが体制批判をしたりすると、陰に陽に圧力が掛かると言うこともあるようです。
NHKが従軍慰安婦問題を取り上げようとして、自民党が影から手を回して企画を潰した事件なんかは、NHKと自民党の両者が否定しては居ますが、圧力があったのは事実だと考えられます。
こうゆう時にこそ、マスコミは毅然とした態度を示すべきです。
前回の総選挙に関してのマスコミの態度は、オピニオンリーダーとしての矜持が全く感じられません。マスコミの意識の低さを露呈した事件でした。

10 : 湖の騎士 : March 26, 2006 04:47 PM

悠々様 イチローの話から少し頭を捻るといつのまにか日本のマスコミの在り方に話が発展していきました。それをまたガッチリと受け止めてくださってありがとうございます。マスコミはホリエモンについても昨年の小泉総選挙についても、批判精神の欠如というよりも「頭がふわふわになっている」状態でした。これを正常に直すのは容易なことではありません。「ミーハー菌」に冒されている感じです。これにどう対処するかが、これからの最大のテーマです。

11 : tiakujo : March 26, 2006 06:53 PM

話が飛ぶかもしれませんが、とり上げてもらえたらとのお願いです。
イチロー人気について考えつつ、相撲力士魁皇関の人気についてです。
福岡の地元は当然と思いますが、今場所の大阪でもすごいので、どうしてなのだろう?きっと人間的にすばらしいのかしら?と思ってます。
マスコミ的にはどうなのかも知ってみたいし、、。
いつか、ついででかまいませんから。

12 : 湖の騎士 : March 26, 2006 09:16 PM

tiakujo様 今日も魁皇関の相撲を見ました。白鵬に勝って8勝目をあげ、大関が安泰となりましたが、大阪の人々の声援はすごかったですね。この人の人気の秘密を扱うことは私の力を超えているかも知れませんが、不可能と見えることでも取り組んでいるうちに可能になることもあります。自らの「課題」として心に留めておきます。イチローについては一つ注文があります。もう5年もアメリカにいるのですから、アメリカのメディアのインタビューには通訳を介さず自ら英語で答えてほしいということです。朝青竜にしても琴欧州にしてもみんな日本語で応答しているのですからーー。

13 : ボブ : March 27, 2006 01:28 AM

違う話しになりますが、最近「仲介者」といわれる人物が世間を騒がせています。仲介者の話を鵜呑みにしてしまった政治家も馬鹿だが、そのガセネタでお金を稼ごうとした仲介者はとんでもない人だと思う。
この週刊新潮の記者が意図的にこういう文章を書いたのか、また事実にもとづいた報道かはわかりませんが。もし意図的なもだとすれば、これは読者に対する挑戦状だろうと受けとる。

14 : 湖の騎士 : March 27, 2006 09:21 AM

ボブ様 一つの言葉から皆さんが自由に話をふくらませるというのは実に面白いですね。そうですか「仲介者」という言葉から、あの国会議員とガセネタの提供者が浮かんできましたか。仲介者にはおたがいよくよく気をつけましょう。「週刊新潮」にイチローが「浮いていた」ということを教えた「担当記者」は、新潮社の社員でないことはまず確かです。彼はそれを「書いた」のではなく、編集部に「語った」のだと思います。とにかく今回の二つの雑誌の対照的な記事で、マスコミのあり方について、相当深い見方ができるようになった若者も多いのではないでしょうか。

15 : 小龍 : March 27, 2006 09:58 AM

30日付けの新潮ですが私も発売日に購入して拝見いたしました。
この号で私の目を一番引いたのはやはりこの記事でしたが、大変違和感を感じました。
結果的に試合に勝利しているわけなのに、「王監督は、~で采配ミスをした」と言っていたり、今大会で活躍しながらも怪我で途中退場した岩村選手に対し「汚名を晴らすチャンスは巡ってくるのだろうか」等とおかしな記事ばかり。

これはなんと言いいますか、ただの「いちゃもん記事」かと思ってしまいます。
週刊新潮はいつも良い情報を提供しているだけに少々がっかりしてしまいました。

先生の仰るとおり、この国に言論の自由がある証拠なのでしょうが・・・

16 : 湖の騎士 : March 27, 2006 10:16 AM

小龍様 新潮の記事の違和感は、この書き込みの5番目に「直」さんという方が書いておられるとおり、優勝前の「古い」記事を差し替えずにそのまま印刷してしまったためだと思います。私の「直」さんへのお礼のコメントも参照してください。新潮と文春の発売日は木曜日、校了(校正を見てこれでOKとすること)は通常火曜日の夕刻です。優勝したのは火曜日の3時半ごろでしたから、この数時間前に「優勝した場合」の記事を用意しておくべきだったと思います。編集長も苦しい選択を迫られたのではないかと想像しますが、ご指摘の岩村選手についてのミスが目立ったのは、失敗だったと思います。

17 : HANA : March 27, 2006 09:43 PM

私も新聞の広告を見て面白いなと思いました。
いつも同じ日に並んで広告が出るので記事を見比べて楽しんでいます。

イチローは松井と違ってマスコミ受けがよくなかったようですが、今回のWBCの活躍でずいぶん変わったのではないでしょうか。

でも、変われない記者もいた?

ごめんなさい・・・息子が倉敷から帰ってくるので迎えに行かなくっちゃ。

消そうと思ったのですが、せっかく書いたので読んでください。

18 : 湖の騎士 : March 27, 2006 10:22 PM

HANA様 ご指摘のとおりイチローのイメージは大きく変わりました。でも、彼自身はあまり変わっていなくて、ただ表に出るものが変わっただけではないでしょうか? そうした彼の奥深くに秘めた本質を日本の記者たちは掘り起こしていなかった気もします。とにかくイチローの「コメント力」は抜群です。松井秀喜選手の場合は、大体毒にも薬にもならないことを言っています。しかしイチローは毎回真剣に言葉を「搾り出している」という感じです。倉敷から帰られたご子息は誰のファンでしょうか? もうとっくにそのことを書いておられるのかも知れませんがーー。

19 : HANA : March 28, 2006 12:05 AM

中途半端なコメントにお返事をいただき恐縮です。
ただいま戻りました。(どこかにコピーしておけばよかったのよね。慌てていたので投稿することしか考えていませんでした)

スポーツ選手に限らず、芸能人や果ては政治家までマスコミに対する防衛策のようなものはそれぞれ持っているのではないでしょうか。

ある者はにこやかに対応し、ある者は無口を通す。でも、長くマスコミに顔を出していれば自ずとその人柄は表れてきます。

芸能人と違ってスポーツ選手は生の姿を見せることが多いからなおさらですよね。

ですから私は一方的な書き方をした記事はあまり信用しません。同じ行動も書き方ひとつで全く違った印象を与えることがあるので、そういう受け取り方をする人もいるんだなという程度に読むようにしています。

私はイチローも好きですが野茂はもっと好きです。イチローのほうが視野が広い感じはしますが、野茂のひたむきさも捨てがたいです。

ちなみに息子は野球よりもサッカーが好きです。私ももしワールドカップで野球とサッカーが重なったら迷わずサッカーを見ます。主人と母は野球にかじりつくことでしょう。

野茂に関する記事を書いていたのでTBします。

20 : 湖の騎士 : March 28, 2006 10:37 AM

HANA様 ご子息を迎えに行かれる前にコメントをくださり、ご帰宅後またコメントをいただきありがとうございます。こういう「動き」というか「臨場感」のあるコメントは貴重です。ご一家の中で野球派とサッカー派に分かれているというのは、今の日本の縮図みたいで面白いですね。野茂についてのTBもありがとうございました。こういうひたむきな人が早くメジャーに上がれるように、私も祈っています。