View of the World - Masuhiko Hirobuchi

July 01, 2006

サッカーにからむ政治 -

前回「悲しみをこめて蹴るボール」という記事を書きました。少し考えすぎたかな、という気もしていたのですが、その後国際サッカー連盟(FIFA)は、「サッカーは人種差別と戦う」という宣言を出しました。やはりこのスポーツの根底には人種差別・階級差別への強い抗議の心が秘められているのだと実感しました。
中南米の国では、虐げられた原住民の子孫(肌の色が黒い)たちが、征服者の子孫である上流階級・支配階層(肌が白い)への強い抗議と自らの運命への悲しみをこめてボールを蹴るのだという私の見方を裏付ける記事が、今週のNYタイムズに出ています。リオデジャネイロから、ラリー・ローター特派員が送ってきたものです。人種的・階層的に分裂しているブラジルのような国では、サッカーによって「国民的融和感・統一感」が味わえます。試合に勝てば、皮膚の色による対立感は薄らぎ、「自分たちは共にブラジル国民なのだ」という意識が強まります。そういう意味では、為政者にとってサッカーほど強力な政治的武器はないわけです。
現大統領のダ・シルヴァ氏は、そうした空気に便乗するのが巧みな人です。ブラジルは今年大統領選挙を迎えます。彼がロナウドら有名選手の張りぼて(人形)の前に夫人と並んで立ち、民衆に愛嬌をふりまいている写真がこの新聞に載っています。大統領も夫人も、私の見るところほぼ100パーセントの白人です。自国のチームが勝てば、ブラジル人は気前がよくなり、消費も大きく刺激されるそうです。しかしこうしたお祭りムードは経済の本当の活性化につながるのか? 国民は本当に融和するのか? 勝利がもたらす陶酔と興奮は問題の先送りにすぎないのではないかという疑問も当然生まれます。
あの単純な形をしたボールの背後には、さまざまな人間の欲望と計算、対立と和解、挫折と希望などが渦巻いているのだということを考えつつゲームを見るのも面白いのではないでしょうか? ま、そのくらいのことを考えつつ観戦してもそんなに疲れはしないでしょう。いつまでも「キャーキャー ワーワー」いっているアナウンサーたちの実況中継だけでは物足りない方々は少しひねってこの世界的イベントを楽しんでいただけたらと思います。、

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COMMENTS

1 : ひばり吹雪 : July 1, 2006 03:11 PM

サッカーが政治に絡んでいくという事が分かりそれを利用して選挙を有利に進めていくのも分かったのですがサッカー以外でも例えば野球のWBCなどのスポーツやノーベル賞などそういう,全世界で名を轟かす事が出来るものも政治に絡むのでしょうか?そこのところがどうも気になるので教えていただけると有難いです。

2 : 湖の騎士 : July 1, 2006 05:39 PM

ひばり吹雪様 野球のWBCを政治に利用した国はあったでしょう。たとえば韓国です。日本に勝つことが国民的課題のようになっていました。しかし日本では政治はこれに絡みませんでした。次にノーベル賞です。物理学賞、化学賞などでは政治色はまずないでしょう。文学もそんなに政治の影響はないと思います。しかし「平和賞」は国際政治そのものとして評判が悪いです。「金でノーベル賞を買った」という批判を受けている政治家もいるのが現状です。なお私のこの記事は、元のものよりもさらに分かりやすく書き直してあります。ぜひもう一度お読みください。

3 : ひばり吹雪 : July 1, 2006 11:26 PM

分かりました。より一層分かりやすくなってより一層理解できました。でも,ノーベル賞がそこまで批判的とは思いませんでしたね。ディアゴ・スティー二社発行の『週刊そうなんだ!』という,マンガで楽しく詳しく物事がわかる本があるのですがそこにノーベル賞は『世界中から厳しく公平に選ばれて贈られる最高の名誉』とあります。学校の成績よりも失敗談から出てくることでも受賞できるとありました。ノーベル賞は子どもから夢のように扱われる時を楽しみにしたいです。観戦どうこうの前に私はその頃寝ちゃってるものですから。NEWSの時そんな事も考えて見ます。

4 : 小龍 : July 2, 2006 04:04 PM

先生お久しぶりです。

私も以前、南米が何故サッカーが強いのかと考えた事があります。
貧しい貧困層の人たちにとってのサッカーと言うものは唯一の「上へのし上がるための階段」であるのだと思います。
日本のように豊かであれば夢も色々もてますからサッカーにこだわる必要はないですが、貧しい国ではボールの代わりになるものがあれば手軽にサッカーの中へ入る事ができると言うのが大きな要因であると考えました。
サッカー選手を多くの人々が目指せばそれだけ才能のある人材も高い確率で生まれるでしょうし、日本のように豊かでやる事が多ければ才能も多方面に離散します。

この事と合わせて先生の仰っているような支配階級への反骨心や貧困から培われたハングリー精神、そして政治的思惑から来る「国を挙げてのバックアップ」があれば強いのは至極当然のような気もします。

ちなみに豆知識としてですが、1930年に始まったW杯第一回目の開催国は南米のウルグアイで、独立100年を記念してということでウルグアイが最初の開催国となったそうです。
歴代全てのW杯に出ている国はブラジルであり、発祥の地であるイングランドは意外にも1954年以降から出場との事です。

5 : 湖の騎士 : July 2, 2006 05:24 PM

ひばり吹雪様 この書き直し記事によって内容がより分かりやすくなったということで喜んでいます。ノーベル賞については、子供の夢をこわすつもりはありませんが、「平和賞」だけは、その時その時の政治的思惑(おもわく)で「この人に与えよう」と決めているのは事実です。これも複雑な国際政治の現実なのです。ノーベル賞のうちで「平和賞」だけがノルウェーの首都オスローで授賞式が行われ他の賞はすべてスウェーデンの首都ストックホルムで授賞されているのはご存知ですか? 昔はこの両国は同じ国(連合王国)だったのです。「週刊そうなんだ!」についての情報は貴重でした。早速見てみます。ありがとうございました。

6 : 湖の騎士 : July 2, 2006 05:34 PM

小龍様 本当にお久しぶりです。貴方もだいぶ前から「南米がサッカーに強いわけ」を考えていたというのは心強いことです。「なぜなんだ?」と考えることは人間の成長の原動力ですから。W杯についての出場国の情報、ウルグアイで第一回が開催されたという事実も面白く貴重な情報です。ありがとう。イングランドはサッカーを生んだ国として「後から来た連中の仲間になど入れるか」とお高くとまっていたのが、あまりのブームのために54年から参加することにしたと聞いていますが正しいでしょうか? 

7 : 悠々 : July 2, 2006 06:03 PM

政治家はサッカーに限らず売名の為なら、何でも利用しますよね。
国民栄誉賞なんてものを急ごしらえして、王選手と肩を並べてTVに出てみたり、とにかく顔を売ることにはご熱心な人種ですから。
廣淵先生がご指摘のように、ノーベル平和賞はいい加減な賞だと思います。
佐藤栄作がノーベル平和賞を受賞したときなどは全く興ざめでした。
佐藤栄作が世界平和に何程の貢献をしたというのでしょうね?
流石、日本のマスコミも受賞!、受賞!とあのときは大騒ぎしなかったと記憶していますが、逆に「何故だ?」と突っ込みを入れて欲しかったです。平和賞に限っては金で買えるんでしょうかね?

8 : 湖の騎士 : July 2, 2006 09:25 PM

悠々様 中南米の国ではW杯のある年に大統領選挙が行われる国が多いようです。ブラジルもメキシコもそうです。きちんと調べれば相当数に達すると思います。ブラジルでも前大統領はインテリで、サッカーはいっさい見ず、政治に利用することもなかったそうです。いわゆる「ラテン・アメリカ(彼らは「イベロ・アメリカ」といっていますがーー)」の国々は我々の想像力の及ばないところがあります。金持ちの桁外れの冨というのはすごいものです。
さてノーベル平和賞ですが、佐藤栄作は全くの平和的交渉で沖縄を取り返しました。これはニクソンという相手がよかったからですが、自分の利益のためには国費を使っていません。しかし最近ノーベル平和賞を受けた某国の前大統領は、独裁者と会うために国費の500億円を貢ぎ、さらに国家の役人を使って執拗な受賞運動を展開してこの賞を手に入れました。佐藤栄作とは欲望の度合いが違います。

9 : 悠々 : July 2, 2006 10:19 PM

湖の騎士様
沖縄の平和理での返還は日本にとっては、大きな出来事だと思います。でもそれが平和賞に結びつく程の功績だと言うことには思えないのです。
私の知識と視野が狭いのかも知れませんが。

10 : 湖の騎士 : July 2, 2006 11:31 PM

悠々様 戦争で一度失った領土を一度も戦わずに取り戻すというのは本当に稀なことです。この点、佐藤栄作の功績は大変なものがあると思います。日本のメディアは沖縄返還について、はじめから大きな誤りをしていました。私はその渦中にいましたので、日本人独得の思い込みに基づく「誤報」を身をもって知っています。この点はアメリカの、それもテキサスの一人の記者の方が、日本のメディアの記者を全部合わせたよりも正確な交渉の見通しを持っていました。佐藤首相は、「繊維で沖縄を買った」といわれ、アメリカの繊維産業に大きく譲歩しましたが、人を一人も殺さず、自殺者も出さずに日本の領土を取り戻した功績はもっと高く評価されるべきであり、当時はまだまともだったオスローの平和賞委員会は、この返還成功の本質を正確に見抜いていたのだと思います。

11 : 悠々 : July 3, 2006 12:33 AM

湖の騎士様
先生の仰る通り、敗戦によって失われた国土の回復には、歴史が示す通り、血みどろの戦いが必要であったことは事実ですね。佐藤栄作の功績が顕著であったことは事実ですからその渦中においでだった先生のお考えを尊重します。
ご教示有り難うございます。

話は飛びますが、第二次世界大戦後、アメリカが主導して、ユダヤ国家イスラエルをパレスチナの地に再建させたのは、私には納得出来ません。
その凝りが未だに尾を引いて、テロとかが続発している原因になっていると思うのです。
キリスト誕生の時代の話で国土を回復するのだ正義であるなら
、アメリカはインディアンに国土を返すべきだし、日本も沖縄は琉球人に、北海道はアイヌに返さなくては、筋が通りません。ユダヤ人に首根っこを押さえられているアメリカの暴挙はベトナムはイラク問題だけではないのです。
そんなアメリカにベッタリの日本の行き方には危惧を感じます。

12 : 湖の騎士 : July 3, 2006 03:23 PM

悠々様 沖縄返還について、私はNYとワシントンで佐藤栄作首相を取材し、同業の先輩記者たちの「思い込み」による誤報を具に見ました。数年後今度はオスローにノーベル平和賞を受賞しにきた佐藤前総理を取材しました。彼の沖縄返還交渉の成功について、私の考えを尊重していただきありがとうございます。さてイスラエル建国についてですが、これは非常に大きな問題ですので、また稿をあらためて考えたいと思います。建国に責任があるのは、アメリカよりもむしろイギリスだと思います。そして建国は建国として、その後の周辺諸国がイスラエルに戦争を仕掛けては敗れているこの現実をどう見るかが問題です。それにしてもサッカーから、こうした世界的大問題へと話題が広がったことは、予想外のことであり、心から御礼申し上げます。

13 : 悠々 : July 3, 2006 06:30 PM

湖の騎士様
私はどうも話を飛躍させる傾向がありますね。
反省します。
何時か先生がイスラエル建国問題を取り上げて下さることをお待ちします。

14 : 小龍 : July 5, 2006 10:20 PM

返事が遅れてしまい申し訳ありません。
54年にイギリスが参加した理由は先生の仰っている事であってると思います。
最初はお高く見ていたのでしょうが、サッカー発祥の地が黙ってみているわけも行かなくなるほど世界中でブームとなり、更には他国の実力が高くなってきたのが原因とも言われているようです。

パレスチナの問題は以前授業で習った記憶がありますが、改めて先生の見識を聞いてみたいです。

15 : 湖の騎士 : July 6, 2006 10:03 AM

悠々様 話を飛躍されるとしても、それは話の展開による自然の成り行きです。むしろそこがブログの意外性であり楽しみといえるでしょう。その点でも悠々さんには感謝しています。イスラエル建国問題については、日本人の多くが偏った情報をもっているようです。そのうち取り上げたいと思います。

16 : 湖の騎士 : July 6, 2006 10:09 AM

小龍様 イングランドがW杯に遅れて参加した理由について、確認していただきありがとうございました。W杯もいよいよ大詰めになりましたが、テロの被害にあわなかったことを何よりも喜んでいます。セキュリティはさぞかし大変だったろうと思います。イスラエルーパレスティナ問題については、そのうち書きたいと思っています。よろしくお願いします。

17 : カスミ草 : July 7, 2006 09:27 PM

お久しぶりです。
先生の記事は拝見していました。
ワールドカップも先生のコメントを念頭に置き、
観ました。
貧しい人々がその環境から脱却できる術としてはサッカーは
最適だと思いました。
何時もと違う応援が出来ました。
でもこんな時だけ政治に利用するのは賛同できませんね。
新聞やマスコミでは知りえない事実を先生が教えて下さるので、拝見するのが楽しみですが、なかなかコメント出来ません。悪しからず

18 : 湖の騎士 : July 8, 2006 12:04 AM

カスミ草様 お忙しい中コメントをありがとうございます。サッカーを見るのに私のような見方は邪道かもしれませんが、なんらかのご参考になったようで嬉しく思っています。さていよいよ決勝戦はフランス対イタリアですが、「ヨーロッパでいちばん料理がおいしい2国の対決」ということになりましたね。まさか美味しいものを食べてるから強いわけではないでしょうがーー。