View of the World - Masuhiko Hirobuchi

July 22, 2006

イギリスの寅さん -

オードリー・ヘップバーンとレックス・ハリスンが主演した『マイ・フェア・レディ』をご覧になった方は多いと思います。これを観て「イギリスでは英語で意思が通じないことが多いのだな。英国民同士のコミュニケーションというのは思いのほかにたいへんなんだ」と思われたでしょう。たしかに地域によって、また階層の違いによって、じつに聴き取りにくい英語を話す人が多く、いわゆる「コックニー」の人々の英語というのは、ちょっと何を言ってるのかわかりません。この映画の舞台となっているのは、19世紀のロンドンですが、ハリスンの演じるヒギンズ教授が「なぜイギリス人は英語が話せないのだ?」と嘆く気持ちはよく分かります。
最近ではラジオ・テレビの発達によって、「BBC英語」なるものが全国に普及し、これがいわば「標準語」になっていますので、若い世代の間では、昔ほどコミュニケーションに難儀をするということはなくなりました。それでもフランスや日本に比べれば言葉が通じないケースはまだまだはるかに多いのです。そうした中にあって、一つの大きな例外を発見しました。それは大道で物を売る人々の世界です。映画の寅さんが雄弁に口上を述べているあの業界です。この業界ばかりは言葉が通じないことには干上がってしまいます。ずいぶん昔のことですが、ロンドンのオックスフォード・ストリートで、こうしたセールストークを展開しているおじさんに出会いました。口上は淀みなくリズム感があり、発音も聞き取りやすく、「これなら全国どこへ行っても通用するな」と思ったものです。そして考えたのは、BBCという強力なメディアが出現するはるか以前から、全国を廻って物を売るこの人々の組織というものがあったに違いないということでした。ヒギンズ教授もこうしたいわば「イギリスの寅さん」に当たる人に出会ったのだろうか?「必要に迫られた人々」は、どんな学校よりも早く、全国に通用する標準英語を生み出していたのではないかーーと。まさか彼らは「けっこう毛だらけネコ灰だらけ」とはいいませんが、「ご用とお急ぎでない方は、寄ってらっしゃい見てらっしゃい」というような名せりふをポンポンと連発していたような気がします。

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COMMENTS

1 : 悠々 : July 22, 2006 04:39 PM

寅さんが商売を全国を股に掛けて行脚するには全国的なその道の組織があるんでしょうね。商品の仕入れにしたってああ言ういかがわしい?品物は普通の問屋さんでは扱わないでしょうから。
バナナの叩き売りは北九州が発祥の地だそうで、輸送中に早く発酵してしまったバナナを無駄にしない工夫が叩き売りだったそうです。
この叩き売り、確かに共通用語で淀みなく語られますね。
博多弁でも関西弁でもない言葉です。
バナナの叩き売りの口上を手話通訳する苦労を手話通訳者の梅田晶子さんが書いています。URLは以下の通りです。
http://www.ube-ind.co.jp/libertas/umeda/umeda_011.htm
今度ロンドンへ行ったら、イギリスのテキ屋の口上を聞いてみたいものです。

2 : tiakujo : July 22, 2006 09:52 PM

> ヒギンズ教授もこうしたいわば「イギリスの寅さん」に当たる人に出会ったのだろうか?
私の言うことが変でしたら、お許しください。
こんなふうにお話が弾んでいく廣淵先生のお考えが楽しくてなりません。

3 : 湖の騎士 : July 22, 2006 11:17 PM

悠々様 たしかにバナナの叩き売りの言葉を手話で伝えるというのは大変でしょうね。梅田さんの苦労話をお知らせくださり本当にありがとうございます。私はこのイギリスの寅さんの名調子に感銘を受け、30分ばかり聴いていたものです。品物は買いませんでしたが、大したものだと思いました。今度機会がおありでしたらぜひお聞きになってください。

4 : 湖の騎士 : July 22, 2006 11:25 PM

tiakujo様 私の連想が弾んでいくのが楽しいと言ってくださり本当にありがとうございます。「もしヒギンズ教授がテキ屋あるいは香具師の世界の英語に出会っていたら、ひょっとすると『大したもんだよ』と思ったかもしれない」とふと考えました。今日の午前まではそんなことは考えたことがなかったのですが、ブログの文章を書いているといろいろなところへ発想が飛躍していきますね。

5 : tiakujo : July 23, 2006 08:58 PM

> ブログの文章を書いているといろいろなところへ発想が飛躍していきますね。

先生、私もこんなふうに思うことがよくあります。
先生と同じなんて、うれしくて、心が弾んでまーす。

でも、後になって読み直してると、へえー、このときはこんなふうに本気で考えたのかと、自分で不思議なこともあります。偉そうなこと 格好いいことの言い過ぎと思うことも。

6 : 湖の騎士 : July 24, 2006 02:12 PM

tiakujo様 発想というのはほんとに意外性のあるものですね。とにかく今まで存在しなかった自分と出会えると思うことがあります。皆さん同じような経験をなさっているのだろうと思います。