View of the World - Masuhiko Hirobuchi

August 03, 2006

英皇太子と交わしたジョーク -

それはずっと昔の話ですが、まさか日本むかしばなし風に「あるところに」というわけにはいきません。場所はロンドンのセント・ジェームズ宮殿。秩父宮妃殿下が訪英されたのを記念するレセプションが開かれました。そのころはまだ独身で社交界の令嬢たちとの噂が現われては消えていたチャールズ皇太子も出席されました。日本のマスコミ各社の特派員たちも、皇太子と話す時間がありました。当然彼らは所属する社名と自分の姓名を名乗ります。一人のテレビ局の特派員に順番が回ってきました。皇太子はたずねました。「テレビ局の特派員というのはどういう仕事をしているんですか?」。かの特派員はちょっと間をおいて答えました。「私の仕事の半分は殿下のご動静を伝えることです」。つまり誰と結婚するのだろうと噂になっている貴方さまの動きを伝えることに仕事の半分の時間とエネルギーを使っているといったのです。もちろん冗談にきまっています。
その時、チャールズ皇太子は「えっ、私についてですか? (Oh, about me ?) と逆に聞き返したものです。この記者は一国の皇太子に対してこのような受け答えをすることを、けっして不敬だなどと思わず、イギリス流のユーモアのつもりでした。そして皇太子もまた、いかにも驚きを隠さずこの会話を楽しんでいました。この特派員というのはもちろん私です。王子がまだダイアナ・スペンサー伯爵令嬢に出会う前の話です。共に若かったなどと月並みなことを言うつもりはありません。ただその後、皇太子の身の上に起きた喜びも悲劇も、誰も予想することもできなかったレセプション会場での一こまです。私としても活字にするのはこれが初めてです。

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COMMENTS

1 : 悠々 : August 3, 2006 10:46 PM

素晴らしいご体験ですね。
ローマの休日でのヘップバーンの王女様と新聞記者のグレゴリーペックを彷彿させるお話です。
記者会見での機知に富んだ遣り取りが、チャールス皇太子のドンファンとしての印象ではなく、大人のエスプリを持った若君という側面を浮かび上がらせた、廣淵先生の快挙ですね。
他国の特派員達もきっと日本のマスコミを見直したことでしょうね。

2 : mix : August 4, 2006 09:21 AM

楽しい昔話でした。
公式の場で、とっさに素敵なジョークを思いつかれる廣淵さまはすごい方ですね。また、それにあっさりお答えになる皇太子もあっぱれです。
まさに、大人の国のユーモアあふれる会話を楽しんでいるというところでしょうか?
これが日本だったらどんな会話になるんだろう、、、、。

3 : 湖の騎士 : August 4, 2006 10:25 AM

悠々様 自分では思いもかけなかった「ローマの休日」を連想していただいてこんな光栄なことはありません。グレゴリー・ペックのようにカッコよくないところが残念ですが、こういう会話ができたことは幸運だったと思っています。これで皇太子の飲酒運転を見逃した粋なおまわりさん、ダイアナ妃の心の内、ベッカム選手の英語、イギリスの寅さんなど一連の英国関連記事の「締め」になったでしょうか?

4 : 湖の騎士 : August 4, 2006 10:30 AM

mix様 お褒めいただき面映いです。ただやんちゃ坊主が大人になっただけの話ですが、「とっさに」出てきたジョークだったことだけはたしかです。こういう状況になれば、けっこうジョークというのは出てくるものです。ただ下品にならないことが大切だと思っています。

5 : tiakujo : August 4, 2006 03:35 PM

先生の記事の感想は、まったく悠々さんとmixさんが仰せの通りです。このようなすてきな言い方を私はできないので、お二人さんに助けてもらいますね。

そして、お二人のあのコメントを思い起こしました。
「魔法使いのmixさんへ」Yoyoさんも含めて、みんなユーモアセンスたっぷり!

6 : yoyo : August 4, 2006 10:33 PM

どのような状況においても(上流、下流?区別無く、) 会話を楽しみたいですね。コミュニケーションがとれる人間同士なんですもの。英国関連記事"締め"と云わず シリーズ楽しみにしております。特派員時代の"お話"聞かせてください。表舞台ばかりではなく!

7 : 湖の騎士 : August 4, 2006 10:52 PM

tiakujo様 いつもご謙遜ばかりですね。悠々さんと mixさんのコメントに共感を覚えておられるようで嬉しいです。mixさんは「魔法使い」ですか? yoyoさんもいつもユーモアのあることを書いていらっしゃいますね。tiakujoさんは言葉でも行動でも「ユーモアを実践」しておられる感じです。

8 : きゅーぴー : August 4, 2006 10:53 PM

monkyi?さんのご推薦で
はじめてコメントさせていただきます。
お仕事の素敵な出会いと、その情景を楽しませていただきました。
テレビでフロスト警部というのがありましたが、その会話の妙味がストーリーを超えて楽しめたものです。
日本人の方がそんな雰囲気を出せたなんて素敵でしたね。
きっといろいろな教養の深さなのでしょうね。
素敵な時間をありがとうございます。

9 : 湖の騎士 : August 4, 2006 11:00 PM

yoyo様 あまり昔のことを語るのは気が引けますが、そういう話が「イギリスの今」や「ヨーロッパの王室の本当の姿」を知る手がかり、なんらかのご参考になればと思って書きました。これで「締め」にしないようにとのお言葉は本当にありがたいです。表に出ない話で面白い経験もたくさんあります。たとえばフランス人は幽霊の存在を信じているかとかーー。みんなが他国の文化や心を少しずつでも知るようになれば、世界はより平和に近づくだろうという夢を見ています。

10 : yoyo : August 4, 2006 11:12 PM

"みんなが他国の文化や心を少しずつでも知るようになれば・・・” そのとうりだと思います。 そのためにも他国で生活され 本音を知っている皆様のコメントを楽しみにしております。 そして問題提起されている 廣淵先生の記事も 楽しいものです。 

11 : 湖の騎士 : August 4, 2006 11:12 PM

きゅーぴー様 初めまして。ようこそいらっしゃいました。Monkeyさんは写真の名手であり、ブログの大先輩でもあります。私の今回の記事は今までにもあまり口にしたことはありません。この会話がしゃれているのかどうかもわかりません。しかし今から考えると、自然体でこういうジョークが言えたことは幸運だった気もします。体調も精神状態もよかったのでしょう。ときどきはこういう「裏話」を載せるようにしますので、ぜひまたお立ち寄りください。

12 : tiakujo : August 5, 2006 12:42 AM

本題に関係ありませんが、お許しください。
オフ会の時、すこしお話くださったことですが、学生さんからのコメントが届かなくなった気がしてなりません。
私は、学生さんのコメントを読むのも楽しみでしたから。

13 : 湖の騎士 : August 5, 2006 11:09 AM

yoyo様 他国の人々の心を知るといっても、非常にむずかしいことですが、それでも少しずつでも改善されていると思います。インド人は牛肉を、ユダヤ教徒やイスラム教徒は豚肉もウナギも食べないことは日本でも少しずつ理解されてきています。片や日本については、寿司・ソニー・トヨタなど食文化や工業製品によってプラスのイメージが伝わる一方で、NYタイムズの異常なまでの日本叩きが横行しています。それでも望みを捨てずにいきたいものです。

14 : VIVA : August 6, 2006 12:12 AM

ご無沙汰ばかりですみません。お声をかけていただき、大変恐縮しております。もちろん英国の皇太子にお目にかかるなどということは、思いも及びませんが、そういう場がどういう雰囲気なのか、とても興味があります。

先生のご経験をまとめて、一冊のご本にされたら、それはそれはおもしろいものができあがりそうですね。考えるだけでわくわくしてしまいます。

15 : 湖の騎士 : August 6, 2006 10:25 AM

tiakujo様 ご指摘のとおりです。しかしこれはある程度予測していたことです。ゼミ生はみんな社会人になり、日々のことで精一杯なのでしょう。このブログに自分を勇気付ける情報が詰まっているというところまでは頭が回らないのだと思います。それだけ私の発信力が弱いともいえます。せっかく楽しみにしていただいていたのに失望させて申し訳ありません。

16 : 湖の騎士 : August 6, 2006 10:30 AM

VIVA様 お励ましをいただきありがとうございます。本にまとめることは私も考えております。同業者は数多いですが、私の感性の世界というのは皆さんに興味を持っていただけるものと思っていますので、集中して本に仕上げるつもりです。

17 : 元室長 : August 6, 2006 10:41 PM

本当にすごいやり取りですね。
相手の文化や立場をしっかりと理解しているからこそできる大人のユーモアはまさに廣渕先生の手腕を感じます。
とっさのやり取りにもこういった知識・教養の深さが出るというのはとても勉強になります。
自分も人と関わる際には形式にとらわれることなく、先生のような相手を尊重した関わり方をしたく思います。

18 : 直 : August 7, 2006 04:18 AM

こんにちわ
 「一連の英国関連記事」を拝見させていただいて、先生の知識と経験に基づいた余裕を感じました。常にプライドを持ち真剣勝負でお仕事をなさっているのですね。これからもお話を楽しみにしております。
 英国王室が身近に感じることができ、特にいいお家柄に生まれながら、お妃になりきれなかったダイアナ妃の感受性には親しみを覚えました。また改めて謎も解けてました。
 これからもお話を楽しみにしております。

19 : HANA : August 7, 2006 09:25 AM

思わず「かっこいい!!」と思ってしまった私はかなりミーハーです。

でも、やっぱりかっこいい!!
そんな先生とこうしてブログでお付き合いできるなんてなんて幸せな世の中でしょう。
個人的にメールなんて頂いた日には本当にひっくり返りそうでした。ありがとうございました。まだ興奮しています。

こんな大人な感覚のチャールズ皇太子がダイアナ妃を守りきれなかったのは本当に残念です。私は雑誌で見たダイアナ妃のため息をつきそうな表情に人ごとながら胸を痛めたものです。

ダイアナさんが結婚したのがちょうど自分も結婚を考えている頃なので心情的にはダイアナさんに傾いています。母を亡くした二人の息子さんもかわいそうでなりませんでした。

ダイアナさんは王室を一般の家族と同じような感覚に見せてくれた人のように思います。たとえ、作られたものだとしても・・・。

20 : 湖の騎士 : August 7, 2006 09:29 AM

元室長様 あんまり褒められると照れくさいですが、室長さんもいざとなればこのくらいの応答はできるようになるでしょう。自分の知っている先輩なり教師がこういう舞台を踏んできたのだということを知れば、自信もつくしこの会話も身近に感じられると思います。こういう経験に出会う日に備えて頑張ってください。

21 : 湖の騎士 : August 7, 2006 09:37 AM

直様 サッカー選手の英語の話から「標準語」に連想が行き、イギリスのおまわりさんの粋なはからい、ダイアナ妃の内面的な「脆さ」というように語ってきて、チャールズ皇太子との会話へと展開してきた一連の記事でした。これで英王室を身近に感じられるようになったとうかがい、喜んでいます。今にして思えば自分ではそれと気付かずけっこう貴重な体験ができたものです。今後ともどうかよろしくお願い申し上げます。

22 : 湖の騎士 : August 7, 2006 09:54 AM

HANA様 お褒めいただくと恥ずかしいですが、この記事を楽しんで下さったと思うと嬉しいです。ダイアナさんの結婚のころにご結婚を考えておられたというのは、非常にリアリティがあります。チャールズ皇太子とダイアナ妃のような悲劇は程度の差こそあれ、世界でたくさん起きているのでしょうね。みんな幸福になればいいのに! そうはいかないのが人生なのでしょうか? ご結婚後間もない幸福なお二人が来日して、祝福を浴びながら赤坂見附から青山の方へとパレードした日を昨日のことのように思い出します。

23 : Jules Verne : August 7, 2006 01:50 PM

英国王室はメディアでしか伝わってきませんが
先生の特派員達時代のお話を交えると身近なお話に感じますね。
こういったユーモアを言うには相手の文化や社会を知らないと相手に失礼になってしまいます。ユーモア一つ通しても先生の教養と見識の高さが伺えます。
私も実学だけでなく、教養を身に付けていきたいと思います。

話は変わりますが、先生もご存知の通り最近の大学は実学主義掲げ「大学の専門学校化」しています。教養ない人間が単に実学を学んでも何の意味もありませんね。

24 : 湖の騎士 : August 7, 2006 04:04 PM

Jules Verne様 それほどお褒めいただくべき体験でもないと思いますが、マスコミでしか伝わってこない話が身近な人間から伝わると臨場感が湧いてくるといったことはあるでしょうね。「実学」と「教養」のバランスというのはむずかしいものですが、欧米の知的階層と対等に渡り合うためには、「一般教養(リベラルアーツ」を重視すべきでしょう。これがないとビジネス交渉もうまくいきません。しかし日本には「リベラルアーツ軽視の傾向」があり、それに危機感を覚えている人は教育界のトップクラスにかなりいます。