View of the World - Masuhiko Hirobuchi

May 25, 2007

「ガッツポーズ」はカッコイイか? -

ゴルフのタイガー・ウッズ選手が優勝を決めた瞬間、右の拳を握りしめ「俺はやったぜ!」というふうにガッツポーズをします。彼だけでなく米欧のスポーツ選手はさかんにこれをやります。日本でもとくにサッカーの選手は常にこのポーズをします。この影響が他のスポーツにも及んできて、たとえば楽天の田中将大投手(まー君)なども三振を奪った時にこれをやりますし、早稲田大学の斉藤祐樹投手もこのポーズが好きなようです。今やガッツポーズは日本においては「カッコヨイ仕草」の代表として認知されています。横綱の朝青龍もガッツポーズに似た身振りをよくします。たとえガッツポーズそのものではなくとも、彼のメンタリティは明らかにガッツポーズ派です。「どうだ。俺は強いんだ。わかったか!」という感じです。彼は今日(25日)で3敗しましたので、今やそんな仕草をする気にはなれないのでしょうが、精神的にはガッツポーズ大好き人間です。こうしたアスリートたちのポーズがテレビを通じて伝えられると、とくに若い日本人はまず99パーセント「ガッツポーズというのはカッコイイものだ。よし自分も!」という気になると思います。

しかしはたしてガッツポーズはカッコイイーーのか?
そんなに感情をあらわにして、みずからの力を誇示するというのは、「はしたないこと」ではないか。真の紳士あるいはサムライというのは、どんな時にも喜怒哀楽を表に出さずに、淡々としているべきものではないのか? 感情を抑制できてこそ、真の勇者ではないかーーという価値観が一方にあることもたしかなのです。むしろ人類の歴史においては、こちらの「感情抑制派」の方が主流でしたし、感情激発派よりはるかに尊敬されてきました。日本の武士たちで試合に勝って喜びを表現するなどという例はまずありませんでした。常に控え目で謙譲の精神を保つというのが、日本人の美意識でした。それは西洋の騎士道においても同じでした。こうした人々のマナーや仕草が、だんだん片隅に追いやられているのが実情です。まさに「悪貨は良貨を駆逐する」という名言が生きている実例です。

だが、ここに1人、世界の桧舞台で活躍する日本人でどんな時にもガッツポーズを取ったりなんかしない超大物がいます。不振の時も嘆かず、5打席5安打を放ってもけっして舞い上がったりしない。淡々として自分のなすべきことを実行している男です。もちろんこれはイチロー選手です。そして彼とはやや持味が違いますが、淡々として自己抑制が利いているもう一人が松井秀喜選手です。
負けて悔しくて座布団を蹴飛ばす横綱と、どんな場合にもけっして奢らず落ち込まず黙々と自分の道をゆく選手のどちらがカッコイイと思われますか?、
どんどん多数派になっていくガッツポーズ人間の諸氏に言いたい。「それは選手としてはともかく、人間としては二流の人物の仕草ですよ」ーーと。ガッツポーズを「はしたない」と思っている人間も多数いるのです。選手を育てるのは観客でありファンです。皆さんが人物を見分ける際のご参考までにと思って書きました。

[Post a comment]

COMMENTS

1 : 悠々 : May 26, 2007 11:34 AM

私は感情表現が下手で、嬉しいとき、悲しいときに素直にそれを表現出来ないのですが、それは武士道の作法とかではなく、単にはにかみ屋だからです。
ゴルフで最年少優勝した、石川遼君の態度も清々しいです。TVのインタビューでのコメントも、控えめで要点を押さえていて、テニスの技だけではなく頭脳の働きも素晴らしいです。
スポーツ選手は強さだけでなく品格も兼ね備えているのが望ましいですね。
最も品格を持って欲しい日本の政治家達がその欠片も持ち合わせていないのですら、スポーツ選手にそれを求めるのは酷かも知れませんが。

2 : 湖の騎士 : May 26, 2007 03:40 PM

悠々様 政治家に品格を求めるのは今のところ無理でしょう。彼らは一般の人々よりも人格的にも知的にも劣っているのだという自覚がありません。しかしスポーツ選手の場合は、真剣に争そっているだけ希望が持てます。石川遼君はまさに「清々しい」好青年ですね。こういう若者がどんどん出てきてほしいものです。

3 : tiakujo : May 28, 2007 02:58 PM

私もコメントできる記事でうれしいです。
朝青龍の5敗はバチがあたったのだと思ってしまう私です。
先生と悠々さんのお考えを「そうなんだー」とストレートに頂だいしました。

4 : 湖の騎士 : May 28, 2007 04:44 PM

tiakujo様 朝青龍の5敗を「バチがあたった」と思っている人はほかにもたくさんいらっしゃると思います。やはり「勝っておごらず、負けて挫けず」という精神状態にならないと、彼は「野蛮な横綱」というレッテルを貼られたままでしょうね。斉藤佑樹君やゴルフの新星石川遼君のようなさわやかで感じのよい若者が、どしどし「よいマナー」を広めていってくれることを期待したいものです。

5 : リッキー : May 28, 2007 09:22 PM

以前野球の世界では大勝している場合には盗塁をしないと聞きました。それは相手がぼろ負けのときにも敬意を払い、プライドを保つためだそうです。勝ったときにこそ負けている方の気持ちを考えなければならないと言うことの表れだと思います。野球の場合は先生のおっしゃる通りだと思います。
その場合うれしい気持ちは自宅まで持って帰るべきなのでしょうか。例えば、サッカーの試合ではゴールをすると選手たちはあからさまに喜びをあらわにします。もちろん観客も大喜びです。相手の選手や観客は残念がっていますが、その時ゴールをした本人が喜びもせず淡々としていたらどうでしょうか?少し不自然な状況が目に浮かびます。これはスポーツの種類によるものでしょうか?
私は先生のコラムを読むまで「ガッツポーズ」のこのを気にもとめていませんでした。少し注意をしてスポーツ番組を見たいと思います。

6 : 湖の騎士 : May 29, 2007 12:00 AM

リッキー様 人が喜んで観ているスポーツの悪口ととられかねない発言をするには勇気が要ります。そこをあえて言いますと、「サッカーというのは大衆の観るスポーツであり、紳士淑女は観ない」という大まかな了解がヨーロッパにはあるようです。したがってサッカー選手が喜びをあらわにするのは、ごく自然とも言えます。しかしこの「あまりにも正直な感情の表現」を「はしたない」と思い、それだけでもサッカーを好きになれないという人も多数いることはたしかなのです。もちろんそんな古くからの価値観にしたがう必要はないのであって、自分が「好き」と思えば観ればよいのですが、日本のマスコミでは「サッカーは大衆のもの」というヨーロッパの一般常識が伝えられていません。あちらのインテリでサッカーが好きな人は、それを人前では口にせず、ひそかに観ているケースが多い。まるで昔の「隠れキリシタン」のようにです。そうした意識もだんだん変化はしてきていますが、あちらの人々の意識の根底には私が述べたような見方が大きく根を張っているのです。