View of the World - Masuhiko Hirobuchi

November 13, 2007

ヘビと日本叩き -

ロンドンに住んでいた3年半余の間にヘビを見たことは一度もない。カエルも見たことがない。庭はかなり広く、トカゲやミミズ、チョウやハチはよく見かけた。ゴルフ場ではときどき生あたたかいモグラが死んでいた。しかし世界のどこにでもありそうなヘビは見たことがない。よくよく考えるとロンドンは北緯51度地点にある。細川たかしの歌に「北緯五十度」というのがあり、そこでは極寒の波しぶきが頭の上から落ちてくる。「北緯五十度カムチャッカ沖だ」ということになる。イギリスの周辺には、あたたかい海流が流れているといってもやはり北緯51度ともなれば、熱帯や亜熱帯に棲むヘビはそうそう見つからないのかもしれないと考えた。しかし「自分の見聞の範囲だけで物事を極めつけるわけにはいかない」。かつてロンドンに住んだ日本人に軒並み電話をしてみた。「ヘビを見たことがありますか?」と。電話を受けた元商社マンや航空会社の駐在員、マスコミの特派員たちは一様に戸惑いながらも、十人が十人とも「そういえば見たことはない」と答えてくれた。だがそれでもまだ安心(?)はできない。今度は日本に来ているイギリス人に同じ質問をしてみた。するとなんと「子供のころ年に一、二回の割で見た」というではないか。二人目の特派員の答えも同じだった。「ロンドン近郊にはヘビはいない」と断言的に言わなくてよかった、と思った。
さて、ここからが本論である。日本に来ている外国のメディアの記者たちは、きわめてかぎられた見聞をもとにして日本を伝えている。日本語ができずに、周辺の助手や友人あるいは偏った意見をもつ日本人ジャーナリストの「日本観」をもとに話を組み立てることが多い。土台になっているのは、ずいぶん昔に「日本はこうだ」と思い込んだ対日イメージである。こういう記者にかかると「日本女性は常にしいたげられており、夫に従属している」ということになる。さらには「日本人は先の戦争を引き起こした責任を自覚せず、危険なナショナリズムが頭をもたげてきている」となり、ひどい場合には「日本女性には人権なんてないのだ」ということになる。知的誠実さをもった人間にはとうてい書けない文章である。しかしこうしたヨタ記事を見て、「そうか、日本の女性には人権がないのか!」と短絡してしてしまうアメリカの下院議員たちもいるのである。このような、「日本女性には人権などない」と断じる外国人記者は、「ロンドンにはヘビはいない」と極めつけてしまうのに等しいのではないか。自分の情報の収集力は限られているのだという自覚がほしいところだ。

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COMMENTS

1 : 悠々 : November 13, 2007 10:55 PM

「百聞は一見にしかず」なんて言葉が有りますが、人は自分の見たものが真実の全てだと思いがちです。
美味しそうなリンゴを見て食べようとしたら、裏側は腐っているかも知れないのに正面から見たものが全てだと思いがちです。
先生が仰るように、見えないものは無いのではなく見つけていないだけかも知れないのですね。
新聞やテレビの報道にしても、取材した者の見方が伝わるだけで違う側面も有ると言うことを受け手は心得ている必要が有ります。
伝える側も何が真実かを見極めて報道して欲しいですが、受け手も眉に唾を付けていることが大切だと思います。

2 : 湖の騎士 : November 14, 2007 09:51 AM

悠々様 物事を一方的にとらえる報道はあとを断ちません。ここにはもっと具体的に書くべきでしたが、最近翻訳が出版された『プリンセス・マサコ』などは対日誤解というよりも「無知」に基づくひどい内容です。皇居には赤い鳥居がある、などと書いています。天皇家は神道の守護者だから鳥居があるのは当たり前との思い込みによるものです。こうした誤報が日本をいかにゆがめているかは恐るべきものがあります。

3 : 悠々 : November 14, 2007 10:49 PM

赤い鳥居はお稲荷さんのもので民間信仰に近いから、おそらく皇居には無いでしょうね。
『プリンセス・マサコ』の著者は生半可に日本の事を知っているから皇室=神道=鳥居という発想があって、確認もしないで有ると決めつけているんでしょうね? 『プリンセス・マサコ』の読者は、日本通の著者が書いたのだから事実だと思うのは当然ですね。これは間違いと言うより、事実を確認することをしない無責任な行いです。
もっと怖いのは、意識的に思考を誘導する記事も見受けられると言うことです。教育の場面でもあることを隠蔽しようと画策したりする政府の行き方などもしっかり我々は監視する必要が有ります。

4 : 湖の騎士 : November 15, 2007 11:33 PM

悠々様 『プリンセス・マサコ』の著者はオーストラリア人で、内容があまりにもひどいので、最初に出版を引き受けた講談社は具体的に間違いを指摘したところ、著者は絶対に自分の非を認めなかったそうです。そこで出版を引き受けた会社のオーナーが元日本赤軍のメンバーだったという記事が週刊誌に出ていました。この人は外国人記者クラブでも講演し、自分の著作が日本政府による「検閲を受けている」と喚いたそうです。こういう根っからの「反日」家が広める日本像が世界にかなり出回っていて、その害は実に大きなものがあります。

5 : 悠々 : November 17, 2007 12:03 AM

正面切ってやるプロパガンダやコマーシャルなら見る人も割り引いて受け止めますが、本や新聞などの記事はそのまま受け取ってしまうから、実害は甚大ですね。
小さな事と思って無視していると、塵も積もれば、、、の喩え通り、取り返しの付かない事態を招きかねませんね。

6 : 湖の騎士 : November 17, 2007 10:36 AM

悠々様 4番目の私のコメントの言葉が足りませんでした。「最初に出版を引き受けた講談社はあまりの事実誤認の多さに訂正を求めたが、著者は頑として訂正を拒んだ。そこで講談社は『こんな間違いだらけの本をわが社では出版できない』として出版から手を引いてしまった。そこへ現れたのが元日本赤軍のメンバーの第三書館社長だった」ということです。著者のベン・ヒルズ氏は、噂の類の話も全部「真実」としてしまっていると、元テレビ朝日の皇室担当記者神田秀一氏が指摘しています。日本について何も知らない欧米の読者が、この本によって誤った日本観を抱くとすれば、著者の罪はきわめて重いといえます。

7 : 悠々 : November 17, 2007 10:58 AM

先生が補足して下さったので、私の思考の脈絡が繋がり良く理解でました。有り難うございます。

8 : 湖の騎士 : November 17, 2007 03:27 PM

悠々様 しっかりした文章を書いていれば一度で済んだところを何回もお手数をかけました。しかしこれで話の辻褄があったとなれば非常に嬉しいことです。ありがとうございました。