View of the World - Masuhiko Hirobuchi

December 10, 2007

ビーフとポークのいわれ -

前回は英語で牛肉のことをなぜビーフというのか、豚肉のことをなぜポークというのかの序論を書きました。1066年、フランスはノルマンディーの公爵ギヨームが「自分にはイングランドの王位継承権がある」と宣言して、イングランドに攻め入り、ヘイスティングスの野原でハロルド王の率いるイングランドの騎士団と天下分け目の戦いに勝利しました。彼は一気にロンドンに攻め上り、そこに築いた城がロンドン塔でした。宮廷ではギヨーム(英語読みではウィリアム)がフランスから連れてきた貴族や騎士たちは、当然のことながらフランス語で会話していました。フランス語では生きているときも食卓に乗ってからも牛は「ブフ」であり、豚は「ポルク」でした。こういう呼び方は、イギリス人(サクソン人)も当然耳にします。するとなんとなくこの呼び方の方が洗練されカッコよく思えてきました。支配者である上流階級の人々が、ブフとかポルクと呼んでいる肉を、カウとかピッグと呼ぶのはいかにも粗野で品がないように、サクソン人たちは感じたのです。人間の社会では「趣味」というのは上から下へ伝わるものだそうです。べつの言い方をすれば、人は自分が属している階級よりも1つか2つ上の階級の趣味を真似たがるものです。被支配者階級であるサクソン人たちは、一方で支配者であるフランス人(ノルマン人)に反感を抱きつつも、牛肉や豚肉の呼称に関してはフランス語を用いるほうが優雅だと感じ、それが次第に広まっていきました。「ブフ」はやがてイギリスふうに少し変化して「ビーフ」となり、「ポルク」も「r」の部分を伸ばして「ポーク」と呼ばれるようになりました。フランス語の影響は食べ物だけではありません。現在の英語の抽象名詞はほとんどすべてフランス語から来ています。そういうことが頭に入っている人は、英語を学習する場合のスピードと効率が格段に違ってくると思います。

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COMMENTS

1 : dashi : December 10, 2007 01:36 PM

興味深いお話でした。フランス人は誇り高くて、英語を覚えようとしない(英語が通じない)というのにも通じる感じですね、ホントかどうか知りませんが…。

>「趣味」というのは上から下へ伝わるもの
ということに関して。
いいかどうかは別として、それが本来の姿ですよね。下のものが無理に上の真似をしようとすると、成金趣味と笑われるのかもしれないけど。
最近、やけに「下品なもの」がもてはやされているようで気になっています。なんとかいう芸人が海水パンツ姿でギャグをやったり、「すげー」を連発する品のない女の子や、大食いが売りのタレントが人気だったり。いったい、何が面白いのかと思います。この国の行く末が案じられますね、ほんと。

2 : 湖の騎士 : December 10, 2007 02:17 PM

dashi様 このノルマンのイングランド侵攻によって一気に進んだ英仏の文化交流の規模とインパクトというのは、目を瞠るものがありました。ウィリアムの孫に「獅子の心を持つ王」とされたリチャード(Richard the Lion-hearted)がいました。孫の代になってもノルマンとサクソンの反目は続いていました。しかし双方は文化的に影響しあっていました。今の日本では、エルメスやルイ・ヴィトンのような上流階級の持ち物に憧れる女性たちが多い割には、上流の精神文化を吸収しようという意欲はないようです。そして一方では俗悪趣味がはびこり、まさに「悪貨は良貨を駆逐」しつつあります。精神の劣化現象です。なんとかしなければなりません。

3 : 悠々 : December 10, 2007 09:16 PM

私は全くの語学音痴ですから此処にコメントする資格はないのですが、ブフもポルクも面白く拝読しました。もしかしたらビュッフェなんかも同じ語源から来ているのでしょうか?
今の日本の女性達が向こうのブランド品を後生大事に崇めているのは浅ましいというか、精神的に貧しいと思います。何れにしても褒められたものではありません。一点豪華主義もさもしいし、全財産をはたいてブランド物で身を固めているのも哀れな感じさえします。ブランド物でなくとも良い物はあるのですから、それを選べる見識を持つことでセンスの良い身なりを整えるのがエレガントだと思うのです。
私が以前ピカデリーのデパートで値頃で気に入ったハンティングコートを見つけてブランドも確かめないで買い求めたら、(バーゲンで安かったんです)テレビでイギリスの首相が同じコートを着ているのを見て、驚いたことがあります。後で調べたら、一流の店の物でした。自分の目の確かさにほくそ笑んだりしました。

4 : 湖の騎士 : December 10, 2007 09:42 PM

悠々様 昨今のブランド品をありがたがる女性たちが浅ましいというのは、全くの同感です。「物」に熱中するよりもそうした「物」の背後にある「心」とか「知性」の方にどうして頭が回らないのでしょうか? 何十万円もするバッグを買ったからといって、その人は高級になどなりません。それより千円で有名な文学作品を買い、これを基に会話を展開する力を磨いてほしいものです。ブランド品を持っている女性たちの頭脳の程度というのは、大体想像がつきます。「これだ!」と思って本能的に買ったハンティングコートが、実は英国首相も着ているもので、後で調べたら一流の店のものだったというような買い物の仕方が、本当のジェントルマンの買い物法でしょう。「ビュッフェ」と「ブフ」は同じ語源とは思いません。調べておきます。エキサイティングなコメントをありがとうございました。