View of the World - Masuhiko Hirobuchi

December 16, 2007

リチャード獅子王 -

ウィリアム征服王の孫の世代の話。王位に就いたのは長男のリチャードでした。彼は豪胆な武人で、「獅子の心を持つリチャード Richard the Lion-hearted」と呼ばれ、民衆に間に人気がありました。しかし彼はやがて「十字軍」の一員として聖地エルサレムに向かいます。そこで彼を迎え討ったのは、全アラブの英雄として今にいたるもきわめて高い評価を得ているサラディンでした。リチャードは武勇はすぐれていましたが、統治者としての能力や教養の面でサラディンには及ばなかったといわれています。ある時、リチャードは高熱を発して寝込みました。これを聞いたサラディンは、高い山の嶺にわずかに残っている雪を取りにゆかせ、これを敵の将であるリチャードに贈ったといわれます。サラディンこそは当時の真の文武両道に秀でた指導者でした。
さてリチャードは帰国の途につきますが、フランス領内を通過中にフランス国王フィリップに捕えられます。フィリップは「リチャードを返してほしければ、身代金をよこせ」とイングランドに迫ります。このころロンドンの宮廷では、王の留守の間にリチャードの弟のジョンが王位についていました。ジョンとその取り巻きたちは、民衆の間に人気のあるリチャードの帰国を望んでいませんでした。このままではリチャードは祖国に見放され、幽閉されたままで異国で一生を送らねばなりません。果たしてリチャードの運命やいかに! ということになり、ここから忠臣、悪人、義賊、絶世の美女らが入り乱れて、息もつかせぬ物語が展開します。前々回から、牛肉をなぜビーフと呼ぶのかという話をしてきたのも、英国史の中でも最も大衆に愛されている英雄や豪傑、弓の名人らが登場するこの物語にお誘いしたいがためでした。こういうきわめてポピュラーで、英国人のほとんど(アメリカでもまずは50パーセントくらい)が知っているストーリーが頭に入っているのといないのでは、英語国民とのコミュニケーションに大きな差が出てきます。こういう血沸き肉踊る話がもたらす効果ははかり知れぬものがあります。話題を広げ、英米人との生きたコミュニケーションに役立てていただきたいと思い、リチャード王のことを書きました。

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COMMENTS

1 : FUMIHITO : December 17, 2007 12:58 PM

先日はお疲れ様でした。
シェイクスピアの話ですね。
話などでは聞いたことがありますが、実際に物語を見たり読んだりしたことはありません。
何かお勧めのものがありましたら教えて下さい。
よろしくお願い致します。

2 : 湖の騎士 : December 17, 2007 05:32 PM

FUMIHITO様 初めてのコメントをありがとうございます。この物語は次回で完結させるつもりですが、作者は「ウォルター・スコット」という詩人・小説家です。シエイクスピアも扱いそうな題材ですがーー。この人(スコット)の翻訳がいまでも出版されているかどうかをよく調べ、また映画も(アメリカ映画ですが)DVDなどで借りられるかどうかを調べてみます。翻訳はまちがいなくあると思いますが、DVDはまずない気がします。とにかくこういうことに興味をお持ちになると、世界が物凄く「近く」見えてきます。文句なしに面白いです。あらためておすすめしますのでちょっとお待ちください。先日はお元気そうで何よりでした。

3 : 悠々 : December 17, 2007 09:26 PM

「ウォルター・スコット」の本は私も是非読んでみたいです。
FUMIHITO様への回答に便乗させて頂きます。
欧州では各国の王家が政略結婚で親戚関係になったりすることが多かったようですね。フランスとイギリスだけではなくスペインや北欧の国々とも縁戚関係があります。
そんなことが中世の血みどろの争いから幾らかでも和平の機運が生まれてきたのかも知れません。
近世になってもドイツが周囲の国々との争いを続けてきたのはこの縁戚関係から離れていたせいではないか、なんて考えたりします。
現在は血縁の繋がりからユーロというお金の繋がりで纏まろうとしているのもそんな歴史的敷衍があったからかも知れません。(見当違いの考えかも知れませんが。)

4 : 湖の騎士 : December 18, 2007 10:38 AM

悠々様 ウォルター・スコットの小説があまりにも面白いので、深刻ぶった純文学好きの日本のインテリは「なんだ、大衆小説じゃないか」と思ってきたふしがあります。しかし、だれが見ても世界最高の純文学の書き手であるゲーテはスコットの作品に最高の賛辞を捧げているのです。そのことも次回に書くつもりです。さてドイツとヨーロッパ各国の血縁関係ですが、19世紀のイギリスで名君とされ、記録的な治世の長さを誇ったヴィクトリア女王の夫君アルバート公は、ドイツはハノーバーの出身でした。現在のエリザベス女王の姓は「ウィンザー」ですが、このファミリーは長く「ハノーバー家」を名乗っていました。これでは「ドイツ的」と見られ、国民的人気がなくなるので、イギリスふうに「ウィンザー家」と改姓したのです。ドイツとイギリスは、こうしたきわめて近い関係であるにもかかわらず20世紀に二度世界大戦で戦争しています。戦争をするのだという内閣の決定に王は口を挟めないという、近代立憲君主制のルールが守られている証拠だと思います。

5 : 湖の騎士 : December 18, 2007 10:52 AM

悠々様 (2便)「ユーロ」についての物語というのも、きわめて人間的なもので、感動的でさえあります。これはビジネス上の必要から発案されたものだけではなく、根底には「平和」志向がありました。現在の「EU」の前身の「EC」、そのまた前身の「EEC」がなぜ生まれたのか。ドイツとフランスが怨讐を越えてなぜ「EEC」や「EURATOM(欧州原子力共同体)」の創設にどのくらい情熱を注いだかを辿ると、それこそ感動的なドラマが隠されています。日本人で、こういうことを書いている人がほとんどいないのが残念です。私はこういう番組を企画し、ほとんど実現しかかっていたのですが、スポンサーの関係で実現しませんでした。それが民放の現実です。潤沢な予算があるNHKなら、その気になればできることですがーー。

6 : 悠々 : December 18, 2007 12:10 PM

湖の騎士様
ご教授有り難うございます。浅学な私にとってとても為になるお話です。王室の血縁関係が、「君臨するも統治せず」の民主主義の原則が貫かれているのは良いことですが、戦争の抑止力にならなかったのは残念です。
欧州の人が全く紅葉に無関心であるかどうかは分かりませんが、少なくとも数少ない私の友人達は関心を持っていませんでした。
欧州の人達の平和に関する願望がECやユーロの創設の力になったことは私にも容易に推察できます。
このことに関しては又先生のご高説をお聞かせ頂く機会をお待ちしています。