View of the World - Masuhiko Hirobuchi

July 15, 2008

もしこの言葉を知っていたら(1) 「セラヴィ」 -

秋葉原の連続殺人事件は痛ましいかぎりですが、またぞろ有力政治家が「そういう若者を創りだした社会が悪い」と言い、彼が「元凶」とみなす経済学者を実名を挙げて攻撃しています。(詳しくは「週刊新潮」7月17日号42ページをご覧ください)。この政治家が信念に基づいて人を攻撃するのは自由ですが、今の社会を創りだしたのは、なにも特定の個人ではないはずです。なんでもかでも社会が悪いということになれば、そして社会が悪いのだから殺人に走るのもやむをえないと考える者がふえれば、この国には殺人犯が急増するでしょう。この政治家のような極論に走る前に、もっと問題を前向きに考える方が賢明というものです。私の見るところ、今の若者の不幸の大部分は、簡単な言葉が頭に入っていないことから発生しています。昔の日本人なら、まず誰でも知っていたような言葉、そして世界の他の国々では若者も大人もほぼ全員が知っている言葉のいくつかが頭に入っていれば、簡単に解ける問題が解けないのです。あるいは愚かな行動に移る前にそうした言葉が頭をよぎれば、「ああ、自分はなんとバカなことを考えていたのだろう」と行動を思いとどまるだろうと思うのです。そうした庶民の知恵の結晶ともいうべき、いわゆる「下世話な知恵」をもっと身につさせたいものです。では具体的にどういう言葉が大事なのか。その筆頭として挙げたいのが、「セ・ラ・ヴィ」(それが人生だ)というフランス語です。英語では「That's life.」となると思いますが、英国でもセ・ラ・ヴィというフランス語はかなり通じます。
「それが人生だ」「仕方がないのだ」「うまく行かないのが当たり前だ」ということになっていき、諦めの色が濃い場合もありますが、「そうカリカリするのはやめようよ。それが人生だよ」という、大人の知恵がうかがえる言葉です。別の角度から物事を見る余裕にもつながります。こういう了見があればユーモアも自然と生まれてきます。学校では受験に役立つ知識や就職に有利な知識ばかり教えようとしますが、もっとこうした庶民の知恵といったものを、周囲の大人から吸収してほしいものです。石油危機があっても、金融危機がきても驚かない。それが人生だからだ。周囲の人が自分につらく当たるのもやむをえない。それが人生というものだ。といった思想が頭に入っていてほしい。諦めよく、無気力に現状を肯定せよというわけではありません。現状の矛盾は大いに正すべきです。しかし声を大にして世の矛盾を糾弾しても、誰もそんな言葉には耳を傾けないでしょう。本当に現状を変えうる人は、もっと世の中のことを分かっている人だと思います。

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COMMENTS

1 : 悠々 : July 16, 2008 09:46 AM

秋葉原の事件と言い土浦の事件と言い、何れも無差別に多くの人を殺傷しています。このほかにも常軌を逸した事件が頻繁に起きていますが、それらを引き起こした犯人は何れも心の病を患っている人だったと思います。
どこからが異常で何処までは正常なのか線引きは難しいと思いますが、精神に異常を来している人に対して、どのような言葉を教えても言葉が抑止力を持つことはあり得ないと思います。
これらの人たちは病気を理由に免訴され精神病院に送られますが、医師が治ったと判断すれば社会に舞い戻ってきます。そして又同じ事を繰り返すのです。
精神病は医師の適切なコントロールがなされない限り抑制は出来ないのですから少なくとも犯した罪に相当する期間は強制入院させるべきだし、退院後もしっかりした監視下に置くべきです。
病気の人は治るまで治療を受ける、「それが人生だ」と悟るべきです。

2 : 湖の騎士 : July 16, 2008 11:41 PM

悠々様 私が言いたいことは、「もし昔の日本の庶民大衆のだれもが知っていたような言葉や格言を、今の若者が身についた知識として持っていたら、切れてしまったり人を殺そうという気にはならないだろう」ということであり、精神を病む若者もぐんと減るだろうということです。こういう巷の常識、格言、落語や俗謡(都々逸、さのさ、小唄など)に出てくる世界や語彙に馴染んでいれば、日本の社会は今よりはるかにうまく機能すると思います。標題にフランス語をたまたま持ってきましたが、これは欧米の言語圏での庶民の言葉として、広く流通しているものの一例です。「ボキャボラリーの貧困が招く犯罪」ということを考えてみたいのです。

3 : 悠々 : July 16, 2008 11:55 PM

先生のお考えは勿論承知の上での天の邪鬼コメントでした。
良い子、秀才、同化と言ったセオリーで括られて成長してきた子供たちにとっては、窮屈でギスギスした環境に耐えられなくなってしまう者も出てきますね。
江戸っ子の洒落とかウイットに富んだ言葉が周りに溢れていたら、世の中ずっと暮らし良い事でしょう。
今、ユルキャラ流行りだそうですが、きっちと決めつけたものだけではなく、ゆとりとかいい加減さがある方が気が楽ですよね。私自信がアバウト人間ですから、先生のご指摘には大賛成なのです。セラヴィの上を行くケセラセラ(♪なるようになるさ~)も良いですね。

4 : 湖の騎士 : July 17, 2008 09:55 AM

悠々様 東名高速のバスジャック事件を起こした少年が、「彼女にふられた」「親に叱られた」ことを犯行の動機に挙げていました。「男女の間には心変わりがあるのは当たり前」であり、「去った女の子は追わないのが真の男」であり、これが「男の美学」というものだという常識が頭に入っていたら、みっともなくてこういう行動は起こせないはずです。少し古いとお思いでしょうが、他国ではまだまだ健在な価値観です。男女の出会いと別れについても、もっと教えてくれる先輩や大人が必要です。さらに「親はうるさいのが当たり前」ですし、「切れるなどというのは弱虫のすること」です。先進国でも途上国でも、戦前の日本のような価値観が生きていて、それが惨事を防ぎ犯罪の防止に繋がっている例は数多あります。若者が、落語に出てくる粋な苦労人のおじさんみたいな人に接する機会を、ふやしたいものです。

5 : 職人希望 : July 17, 2008 03:18 PM

身近に“格好いい大人”が居ないことが、大きな理由のひとつにあげられるのではないでしょうか?
思春期の子供たち、後輩たちがあこがれる先輩になれるよう、日々自分自身に言い聞かせなければいけませんね。いつの日か、“男の美学”を、語らずして自分の背中で表現できることを目指して。

6 : 湖の騎士 : July 17, 2008 09:24 PM

職人希望様 後輩たちが憧れる先輩になってください。何にも語らずとも背中がすべてを語るような、格好いい「男の美学」の持ち主になってください。日本はそういう男たちを必要としています。そういう人たちが果たす社会的貢献はきわめて大です。

7 : 職人希望 : July 19, 2008 09:45 AM

つたないPC操作を、カバーしていただきありがとうございました。機械音痴のおじさんのようで恥ずかしかったのですが、おかげですっきりしました。
recordに残るものは、じっくり吟味しなければいけませんね。若さ(愚かさ)をあらためて認識しました。
本を執筆されるのは、本当に大変なんでしょうね。それこそrecordですし。執筆がんばってください。

8 : 湖の騎士 : July 19, 2008 02:28 PM

職人希望様 PCの操作上少しくらい文面に不自然さが出てもまったく気になさる必要はありません。記録に残るといっても読者は大らかに前後を繋げて読んでいます。お心のこもったコメントに感謝します。本を書くというのはたしかに大変で、ミスは数年残ってしまいますが、ブログ上ではどうかお気軽にコメントをお寄せください。