View of the World - Masuhiko Hirobuchi

November 26, 2008

BBCは「国営」にあらず -

BBCの3文字がそれぞれ何を代表するのか、はっきりとは知らなくとも、これがイギリスの放送局だということを理解している人は多いと思います。それはいいとして、これを「英国国営放送」と伝える有識者・評論家・新聞記者が多いのが気になります。テレビやラジオ、活字媒体、自分の著書の中でそう伝えているのです。BBCは断じて「国営」ではありません。今の経営形態になるために、イギリスが朝野をあげてどんなに苦労し真剣に取り組んだか、そしてこの形がその後いかにながく多くの国の「公共放送」の模範となったかを知る者にとっては、こうした誤報や認識のミスは許しがたいとまで思えてきます。「遠いイギリスのことだ。そんなに力まなくてもいいじゃないか」とお思いかも知れませんが、これは放ってはおけない「事実誤認」です。イギリスは幕末以来、日本にさまざまな影響を与えてきた国です。立憲君主制に基づく民主主義国であり、文学作品も数多く読まれ、少しシャイで「俺が俺が」と言い募るのを恥とするメンタリティを持つ国民がいるのがイギリスです。共に大陸に近い島国であることを初め、日本とは実に多くの類似点、共通点を持っています。そのイギリス社会の根幹をなしているのがBBCというシステムです。BBCへの正しい理解を欠いてはイギリスは理解できず、世界の公共放送の何たるかも理解できません。過剰な商業主義に陥るのを防ぎ、国家権力の介入を排して言論・表現の独立を守るためにはどういう経営形態がよいかを、何年も考え続けた結果生まれたのが、「受信料収入による経営」「各層・地域の代表から成る経営委員会の設置」「経営委員会が日常の業務を執り行う最高責任者たる会長(ディレクター・ジェネラル=DG)を選び、これに業務を委ねる」という今の形でした。免許の期限は5年とするという形でスタートしたのが、1927年です。BBCを成り立たせる法律は、「時限立法」であり、組織の形態は「特殊法人」でした。歴代のDGは、時の政治権力の介入を排するために、それこそ死にものぐるいの努力をしてきました。詳しいことにはご興味がないと思いますが、そうしたDGの中でもひときわ人格識見ともにすぐれていたのが、初代のジョン・リース(John Reith)でした。BBCは British Broadcasting Corporation の略で、英国放送協会と訳されています。初めは British Broadcasting Company という純民間会社としてスタートしたのですが、放送というのは、一民間企業に任せるにはあまりにも影響力が大きいという意見が生まれてきた結果、「ではどういうシステムが望ましいか」ということになり、放送の未来を考える委員会が設置されました。熱い議論の結果生まれた案が、民放でもなく国営でもないという、世界に前例を見ない今の形でした。こういう血のにじむような苦闘の歴史に何ら関心を払うことなく「英国の国営BBC」と断じている評論家や政治家に猛省を促したい気持ちでいっぱいです。ちなみに日本のNHKは、このBBCの理念とシステムを手本にして生まれたものです。今のNHKの経営陣および従業員が、BBCの創立の理想と苦難の歴史をどのくらい知っているでしょうか? 「知っていればこういうことはしないはずだ」と思える事例が多すぎるように感じるのは私だけでしょうか?

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COMMENTS

1 : 悠々 : November 28, 2008 11:36 PM

BBCとNHKが同じような経営形態であることは先生のお記事でよく分かりました。BBCは受信料を有料にしてその金で運営していますし、強制的に料金を徴収しています。
NHKも有料ではありますが、受信契約に基づいて支払い義務が生ずるから未契約者からは料金の徴収が出来ません。
NHKはBBC並に強制徴収にしたいようですが、金集めだけBBC並みになろうとするのではなく経営理念、取材態度、番組内容をまずBBC並みにして欲しいものです。
NHKの組織形態はNHKが努力して勝ち取ったものではなく旧郵政省から与えられたものですから、自分たちの使命とか公共放送のあり方などについての自覚が欠如しています。
贅沢に取材費を浪費し、未だ足りないから強制的に受信料を取ろうなどと言う発想しか出来ないのです。
BBCの爪の垢でも煎じて飲ませないといけませんね。

2 : 湖の騎士 : November 29, 2008 09:32 AM

悠々様 BBCとNHKは成り立った背景も国情も違うので、一概にBBC並みになれとは言いませんが、せめてNHKのトップや管理職員にはBBCの創立の理念は学んでほしいものです。NHKが視聴率欲しさのために、どんどん大衆におもねりすぎてゆき、一見すると民放となんら変わりないバラエティ番組などを放送しているのを見ると、受信料を払う気にはなれません。取材費の浪費は、視聴者には分からないものですが、かつてシルクロードの撮影許可を得るために、中国政府に巨額の取材費を払ったことを改めて思い出します。公共放送の使命を思い出してほしいものです。

3 : 悠々 : November 29, 2008 10:00 AM

取材費の乱費は今日の番組でもエコ紀行にライブ放送するんです。自然相手の番組なら録画で十分です。録画なら経費も格段に安いはずだし、天候とかが悪ければ取り直しも出来ます。
以前エジプトの遺跡放送もライブでした。ライブでやる意味がないものを敢えてやるというのは金が余りすぎて使い道がないのではないでしょうか?
番組が低俗なものに流れるのは視聴者を馬鹿にしているともいえます。もっと矜持をもって欲しいです。

4 : 湖の騎士 : November 29, 2008 02:12 PM

悠々様 ライブで放送すると「切迫感」「現実感」があると思うのは、たぶんに「独りよがり」です。録画の方がはるかによい番組を作れる場合も多いのです。エジプトの遺跡からの生中継は私は見ませんでしたが、まず「中継車」を使用するとENG(ハンディな録画用カメラ)の場合に比べてはるかに高くつきます。まず十倍ではきかないでしょう。次にこれを日本まで運んでくる「衛星使用料」も相当な出費です。ENGで撮ったVTRを編集した場合との費用の差は歴然としています。次にライブの場合、出演者の下らない「おしゃべり」の時間が長すぎます。それも「ワーッ」「スゴーイ」といった感嘆詞しか言えないタレントや局アナを、飛行機に乗せて現地まで運んだ上で出来上がった作品は本当に中身の乏しいものになっているケースが多いです。「受信料は公金」「大衆におもねらない」ーーこのふたつの意識を胸に刻みこんでおくだけで、NHKは今よりはるかに尊敬される存在になるでしょう。

5 : alien : December 6, 2008 07:20 PM

以前、「ジャーナリズム」についての討論番組をみました。今をときめく人気女性キャスターとNHK出身のベテラン男性キャスターが多数の大学生の質問に答える形式でした。学生さんの「ジャーナリズムとは何ですか?」との直球ド真ん中の問いに、NHK出身のベテランキャスターは「犬が人に噛み付いてもニュースにならないが、人が犬に噛み付いたらニュースになる。これがジャーナリズム」と答えました。これはジャーナリズム学校で初日に習うような基本中の基本らしく、女性キャスターも同意していました。なんだかなぁ。視聴者や読者は、いつもビックリしたいわけではないと思います。手品じゃあるまいし。私などは、地味な内容でもプロのジャーナリストの解説を織り交ぜ、偏向のない奥行き深い情報を知りたいと思います。それから、どこのチャンネルを回しても同じという紋切り型の情報ではなくて独自の視点をもつもの...こう書きながら、湖の騎士様の「コンドルはとんでゆく」を思い浮かべています。BBCが血の滲むような努力で貫いてきた「過剰な商業主義に陥るのを防ぎ、国家権力の介入を排して言論・表現の独立を守る」ことこそジャーナリズムの核のように思えます。このBBCの死に物狂いの苦闘の一旦をはじめて知ることができて目が開かれた思いがします。日本のマスコミは、最近、ますます奇をてらって毒々しい演出に満ちたものになってきました。もう、「人が犬に噛み付いたら...」を学校で教えなくてもいいのではないでしょうか...