View of the World - Masuhiko Hirobuchi

February 27, 2009

カエルとライム -

「カエルとライムの間になんの関連があるのだ?」とお思いでしょうが、あるんですね、これが。アガサ・クリスティ原作の映画『オリエント急行殺人事件』は、たしかトルコのイスタンブール駅のシーンから始まります。駅にはニワトリや羊が多数入ってきて、日本の駅などと比べると非常に「人間臭い(?)」親しみのある光景が描かれていました。そういう中で、名探偵エルキュール・ポワロが列車に乗り込みます。二人の男が彼を見ています。服装その他から判断してどうやらイギリス人のようです。一人が「やつは何人(なにじん)だろうね?」と聞きます。もう一人が「明らかにカエルだよ(Obviously a frog.)と答えます。このカエルというのは「フランス野郎」といった感じです。ポワロはベルギー人ですが、フランス系のベルギー人。顔付きといい、身長体型といい、典型的なフランス人に見えたのでしょう。ではなぜフランス人は「カエル」なのか? 一般的には「カエルを好んで食べる連中」というところから名付けられたとされています。たしかにフランス人は食用ガエルが大好きです。パリには有名なカエル料理専門店があります。そこではサービスに小さなカエルの焼物をくれます。ニューヨークにもカエル料理の店があり、その名もずばり「カエル(グルニュイユ)」です。フランス人は「カエル」という渾名で呼ばれても一向に気にしていない。むしろそういう食文化をもっていることを誇りにしているところがあります。
それではフランス人はお返しにイギリス人をなんと呼んでいるのでしょうか? まさか「海賊の末裔」などとは呼ばないでしょう。私の知識の乏しさかも知れませんが、どうも口汚くイギリス人をののしる言葉はなさそうです。(ご存知でしたら教えてください)。でもただ「イギリス人(アングレー)」というのでは面白くもなんともありません。そこで世界中で「イギリス人」を指す簡単な言葉を探してみると、ありました。それは「ライミー」です。「ライムのような」というか「ライム大好き連中」といった感じです。でもこれは蔑称ではありません。イギリス人はこう呼ばれることを気にしていない。むしろ誇りにしているところがあります。あの狭い島国から七つの海に艦隊・船隊を派遣して世界貿易に覇を唱えた船乗りたちは、船に積み込んだ食料が腐らないように、食べ物の間にぎっしりとライムを埋め込んでいました。そしてライムはビタミンCの不足による脚気を予防するために欠くことのできない貴重な果実でした。「ライム野郎」という呼び名の中には「海の民」「世界に乗り出す進取の気性」といったものが込められています。
フランス人がカエルと呼ばれても一向に気にしないように、イギリス人もライミーと呼ばれることをむしろ誇りにしているところがあります。日本人に対する隣国の人々の蔑称には品もなく優雅さもないのに比べると、文化の成熟の度合いが違うと思わせるものがあります。ではアメリカ人の「ヤンキー」はどうなのか。話はつきませんが、これを語り出すと長くなりすぎます。今回はここで止めておきます。

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COMMENTS

1 : はみんぐばーど : February 28, 2009 07:43 PM

「若草物語」で、エイミーが学校で禁止されている“塩漬けのライム”を持っているのが見つかって、先生から掌をムチで打たれる場面があります。
昔この話を読んだ時に、“塩漬けのライム”がどのような食べ物なのか分からず、ライムと言う食べ物に憧れていましたが、古い私の疑問が解けて、ライムのピクルスだと分かりました。
ライム野郎、いやイギリス人が新大陸に持ち込んだ食べ物だったのですね。


2 : 湖の騎士 : March 1, 2009 10:47 AM

はみんぐばーど様 「若草物語」の映画は私も観ましたが、ライムのピクルスの場面は憶えていません。あるいは映画ではこの場面は省いてあるのかも知れないですね。よいお話をありがとうございました。アメリカにライムが渡ったのは、ご推察のとおりイギリス人たちが持ち込んだものと思います。ここはひとつライムの気持ちになり、『ライム君のぼうけん』などと題して、七つの海を越えていったライムの物語を書いてみたいものです。世界がよりはっきりと見えてくると思います。

3 : 悠々 : March 1, 2009 07:28 PM

フランス人が蛙でイギリス人がライムだとすると日本人は何になるのでしょうね?
ライスでは他の国でも主食になっているし、日本人が食べる特有のものというとなんなのか考え付きません。
戦時中捕虜にゴボウの煮付けを食べさせたら戦後の戦犯裁判で木の根を食わせたと言うことで有罪になったという話がありますが、ゴボウ、イナゴあたりが日本人特有の食べ物かも知れません。でもあまりメジャーではないですね?洒落た食べ物の名で呼ばれたら楽しいのですが、、、

4 : 湖の騎士 : March 2, 2009 06:19 PM

悠々様 日本人を食べ物で呼ぶ習慣はないようです。あえて「造語」するとなれば「スシ」でしょうが、これでは面白くもなんともありません。いちばん口汚く日本人を罵る言葉は、韓国・朝鮮語の「チョッパリ」でしょう。「蹄が割れている奴ら」ということで、下駄や足袋を履く日本人はそれだけ牛や豚に近い劣った民族だという意味です。しかし一度でも日本の夏の湿度を味わった者は、下駄や草履が水虫を防ぐのにいかにすぐれた履き物かを悟るはずです。そういう気候風土も顧みず、他国民を「チョッパリ」と呼んで優越感を味わっているというのは、あまり上品ではないという気がしますがーー。

5 : 悠々 : March 2, 2009 11:14 PM

「チョッパリ」は先様は侮蔑しているつもりかも知れませんが、私にはそうは受け取れません。下駄、草履の鼻緒は便利ですからね。私は今サンダルより草履を愛用しています。
車の運転にサンダル履きだと違反ですが、鼻緒がある履き物は違反ではないのです。下駄でもOKらしいです。
サンダル履きの時に止められたらサンダルは脱いでしまい裸足になっていると違反ではないそうです。話が大分脱線してしまいました。

6 : はみんぐばーど : March 3, 2009 08:23 AM

私も「SUSHI野郎」を考えたのですが、言われる側はいなせな感じで喜びそうだし、言う側は面白くないかもしれません。
ロシア語の「ののしり言葉辞典」があることに驚いたことがあります。日本は他所の国に比べて、悪態語が少ないそうですが、そんな日本人の心情の穏やかさを誇りに思う反面、「国の弱腰外交」などと批判されることが多いのは、このようなことが影響しているのではないかと・・私の短絡的思考でしょう。
勿論汚い言葉を使えば、ことが解決する訳ではないし、日本の国の品位や優雅さ、文化の成熟を、改めて誇らしく感じています。

7 : 湖の騎士 : March 3, 2009 04:03 PM

悠々様 チョッパリといわれても侮蔑とは感じないというのは、けっこうなことです。そこから車の運転の話に展開して行くところが愉快ですね。サンダル運転の違法は知っていましたが下駄ならOKとは知りませんでした。

8 : 湖の騎士 : March 3, 2009 04:14 PM

はみんぐばーど様 ロシア人の罵り言葉の豊富さ(?)は驚くべきものがあるとはかねがね聞いていました。それが辞典にまでなっているというのですから、そういう言葉集で育った人々の品性というものが偲ばれます。日本人のようにそんな言葉などリッチにせずに、「ねずみ色」だけでも百種くらいあるというふうに、優雅な表現を豊かにする民族のほうがよほどよいと私も思います。