View of the World - Masuhiko Hirobuchi

April 03, 2009

子供が笑わない国 -

2月の半ばに、イスラエルの情報機関モサドの前長官エフレム・ハレヴィー氏の記者会見が東京の外国人記者クラブで行われました。数々の鋭い言葉と独特の現状認識を披露し、時に文学的な表現を駆使した会見でした。たとえば「勝者はどんなことにも驚かない。物事が思ったように展開せずに驚くというのは敗者の思想だ」などという言葉です。この人のパレスティナ情勢についての見方に関しては、大いに異議ありと思った人もいたでしょう。しかし個人的な見解はさておくとして、世界の現代史に関する知識の豊富さと、記憶の正確さは驚くべきものがありました。「これだけ物を知っている政治家が日本にせめて3人いたらなあ!」と思わせる会見でした。
記者団との一問一答に入り、「北朝鮮を訪問した印象はどうだったか?」という質問が出ました。氏が数年前にピョンヤンを訪問したことに関する質問でした。しばらく考えていたハレヴィー氏は言いました。「地下鉄に乗ってみたい」と言ったら、担当の役人からなんだかんだと言って止められた。しかしどうしてもと粘ってようやく地下鉄に乗った。驚いたのは子供もそして大人もだれ一人として笑っている者がいないことだったーーと。外国人が乗っていることと、彼にへばりついている政府の役人への警戒感緊張感から笑わなかったのかも知れませんが、この国ではふだんの生活においても子供たちが楽しげに笑うということがなく、たえず脅え緊張し空腹を抱えているのではないかということを氏は言いたかったのだと思います。北朝鮮とイスラエルは遠く離れています。北のミサイルがイスラエルに届くことはまずありません。しかし北が売却した兵器がイランやシリアの手に渡り、それがイスラエルを攻撃する可能性は大いにあります。したがって北朝鮮についてのイスラエルの情報収集と分析は真剣そのものです。それを担当するモサドの元トップが、北の軍事や政治的意図についての分析とは別に、「子供が笑わない国」という北朝鮮認識を持っているのが印象的でした。ひるがえって北の核兵器とミサイルの脅威に直接さらされている我が国の政治家の何人が、北朝鮮の現状と意図について具体的な知識と想像力を持っているでしょうか? 北の人民の幸不幸の現状については、情報がきわめて少なく分析するのもむずかしいのは分かります。しかし「笑っている子供たちがいない国」程度のイメージを抱くことはそう困難ではないはずです。私はハレヴィー氏の言葉を100パーセント信じる者ではありませんが、彼の体験に基づくこのコメントが強烈に胸に突き刺さったことだけをご報告しておきたいと思います。

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COMMENTS

1 : 悠々 : April 4, 2009 06:59 PM

エフレム・ハレヴィー氏の子供が笑わない、と言う観察は北朝鮮の政治家と会っての感想とかコメントより何倍も北朝鮮の国情を鮮明に伝えるものですね。子供までが政府の重圧に打ちひしがれているのだと思うと空恐ろしいです。
日本の政治家も何人かが北を訪問していますが、おそらく先方が敷いたレールに乗って上辺だけを見せられていたのではないでしょうか?自分の目と足で見てこなければ実態は分からないですからね。

2 : 湖の騎士 : April 4, 2009 11:36 PM

悠々様 ハレヴィー氏(現在はエルサレムのヘブライ大学教授)のこの短い北朝鮮観から鋭く真実を見通していただけて、これを書いた甲斐がありました。そういえば子供がガリガリに痩せて明らかに栄養失調で死の淵にいるようなアフリカの国々の子供も笑ってはいません。明治維新前に日本を訪れた西洋人たちが一様に驚き感動したのは、庶民の子供たちが実に楽しそうに笑い、親に大事にされている光景に接したことだったそうです。いくつかの文書にそのことが書かれています。アジアのどの国の子供よりも日本の子はよく笑っていたことが分かります。それはさておき、政治家の皆さんも地下鉄に乗るなりなんなりして、北の実態をよく見てきてほしいものです。20年ほど前のことですが、きれいなチマチョゴリを着た女性が新品の冷蔵庫を開けて、中にソーセージが入っているのを見せられて、「北の人々はけっこう裕福な暮らしをしているんですね」とコメントしていた日テレの男子アナがいました。「これをやらせと見破れないのか」と失笑されたものです。政治家の方々は国民の代表として、偽りのない実態を見てくる義務があると思います。

3 : niraikanai : April 5, 2009 10:29 PM

「政治家の方々は国民の代表として、偽りのない実態を見てくる義務があると思います」とのコメント、私も同感です。

北朝鮮やアフリカなどの発展途上国でもそうですが、首相や大臣・党の代表が日本の地方を視察したり、若しくは災害が起きた際に訪れるとき、「果たしてどこまで現状を把握しているのだろう。なぜ公共の交通手段を使わずにハイヤーなどで病院や施設を訪れるのだろう。」と不思議でした。

いつの災害だか、国の責任の事故だったか忘れてしまったのですが、ある村の民家の前に黒塗りの車をつけて、“お見舞い”している政治家の姿をニュースで見たときには、唖然としたのを覚えています。
苦しいとかつらい・悲しいとか、そういった感情は立場にかかわらず人間として当たり前にあるもの。そういう方々を見舞うときに、玄関前に車をおくなどせずに、その気持ちを察してほしかったです。(愚痴のようなコメント)で申し訳ありません。
いつか、私も病に苦しむ人たちに笑顔が戻ってくるような仕事に就けたらと思います。

4 : 湖の騎士 : April 6, 2009 10:53 AM

niraikanai様 公的な立場にある人が黒塗りの車で現地を視察したり、災害地のお見舞いに行ったりするというのは、まったくセンスがない証拠です。そんな特別扱いで現地に行っても真実は何も見えてきません。見舞いを受けた人も、嬉しくもなければ感激もしないはずです。そこのところが分からないで、黒塗りの車にふんぞりかえって「俺はエライのだ!」と思い込んでいる愚かな大臣や権力者がいます。知的能力が劣化している証拠です。ハレヴィー氏の爪の垢を煎じて飲ませたいです。コメントをありがとうございます。

5 : ねこ : April 6, 2009 05:25 PM

廣淵升彦 ファンの皆様へ、
ネットで番組を始められました。
以下のサイトでご覧ください。
http://world-really.cocolog-nifty.com/blog/

6 : 廣淵升彦 : April 6, 2009 11:23 PM

ねこ様 コメントをありがとうございます。私が独立した記事として書くべきところを助けていただき恐縮です。読者の皆さんもぜひアクセスしてご覧になってください。詳しくはあらためてこのネット番組「世界それホント? 会議」の主旨などを紹介させていただきますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。私がコメンテーターを務め、椎名由紀さんが司会。プロデューサーは田川一郎さんです。