View of the World - Masuhiko Hirobuchi

July 01, 2009

謎の結び目の本当の狙い -

「ゴルディウスの結び目」というのは、樹皮または布で編んだ知恵の輪で、だれもこれを解けなかった。しかしある日現れた1人の英傑が一刀のもとにこれを両断したために、結び目は見事に解けた。結び目に下っていた神のお告げはかなえられ、これを解いた青年はやげてインドにまで遠征し、「全東方(オリエント)の王」となった。これぞ若き日のアレクサンダーであったーーということを3回にわけて書いてきました。そしてゴルディウス王がこういう人騒がせな結び目を、なぜ展示していたのかを自由に推理してくださいとお願いしたところ、いろいろなご意見をいただきました。ありがとうございました。
さて、今回はやや生真面目にこの結び目の存在理由を推理しましょう。思いはフィルギス国の王宮に飛びます。この国の廷臣たちは、面倒な規則や法律を作るのが大好きでした。「そんなことは民の常識にまかせておけばよいことで一々法律など作らずともよいではないか」とゴルディウス王が思っても、廷臣(官僚)たちは「陛下、やはり法で定めませんと民は何をしでかすかわかりませぬ」と言い張り、生活の細部にいたるまで成文化した法律を作りたがるのでした。王がなにか新しいことをしようとすると、廷臣たちは「陛下、それは前例がございません」「あれをしてはなりませぬ。これをしてはなりませぬ」というふうに、がんじがらめに王の行動を規制しました。本当に「前例」以外のことなにもしようとしない連中であり、法をもてあそぶ「匪賊」という意味で、現代の日本でもしばしば用いられる「法匪(ほうひ)」と呼ぶにふさわしい輩(やから)でした。
ゴルディウスは「法律をもてあそび、事を不必要に複雑にしている余裕などは我が国にはない。そんなことをしていたら国は滅びてしまう」という強い危機感から、たびたび官僚たちに警告しました。王には法律や制度よりも、いかにして外敵から国を守るか、経済をどう活性化するか、国民の教育水準をどのように改善するかのほうがはるかに大事でした。しかし官僚たちは聞く耳をもちませんでした。国の危機よりも、前例と規則のほうが重要と考えている連中だったのです。
そこで思いあまった王は、ついに最高の職人に命じてだれも解けないような知恵の輪を作らせました。そして廷臣たちに向かって「汝らのうちだれでもよいからこのパズルを解いてみよ」と命じました。しかし前例が大好きで、頭がこちんこちんに硬直した廷臣たちに、この知恵の輪が解けるわけがありませんでした。ゴルディウスには、初めから答えは分かっていました。いつか知力と胆力に秀でた英雄が現れて、廷臣どもの思いもつかない方法でこのパズルを解くであろう。それを見ればいかに石頭の廷臣どもでも、はっと目が覚めて、前例万能法律万歳の発想を捨てるであろうーーと願ったのです。英傑の出現を待ち焦がれつつ、やがて王は死にました。そしてかのアレクサンダーの登場となったわけです。しかしフィルギスの官僚たちは、アレクサンダーの過激な解決法を目にしても、「自分たちの頭は硬直していた。王が願ったのはこういう斬新な発想だったのだ」と反省するような素直な輩ではありませんでした。相変わらず、法をいじくりまわし、規制強化にうつつを抜かしていました。そのためにフィルギスは、自然に活力を失い、外国との競争にも敗れ、誰の記憶にも残らずに、やがて歴史の渦の中に消えていったのです。

私が親しい友人にここまで話すと、「それは身につまされる話だ。今の日本に酷似しすぎているよ。おそらくは君の創作だろうが、こういう法匪が多すぎるのも事実だ。少しペシミスティックすぎる話だけれど、もっといろいろな方法でこの話を広めてくれ。日本がフィルギスみたいになるのは絶対にいやだからね」という反応がかえってきました。まだ官僚出身の友人諸君には話していません。この記事をお読みになった方は賛否両論をお持ちでしょうが、どうか率直なご意見をお聞かせください。

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COMMENTS

1 : alien : July 2, 2009 11:10 PM

現代にこそゴルディウスの結び目を!
わたしは、「ゴルディウスの結び目」の話に例えて現代の日本の官僚さん達をあてこするエピソードを考え出し、それを嬉々として送信するつもりでした。そして自分でもニヤリと笑うほど、上々なエピソードを思いつきました。(アリストテレスまで登場します。)
しかし、いじわるエピソード案を送信するには、元官僚の知人の言葉がどうしても気になりました。ちょっと社交辞令的な気持ちで私はこう言いました。「公務員の人達も国をよくしようと一所懸命働いているのにバッシングばかりではいい気持ちがしないでしょう?」と。するとこんな答えが返ってきました。「就職した頃、同窓会で民間企業に就職した友人たちと給料を比べたら、当時、公務員の給料は恥ずかしくなるほど低かった。でも、公務員になるのは、もともとそれでも国のために役に立ちたいという気持ちの人がほとんどだからね。」
世のため人のために良かれと思って一生懸命に働いている官僚さんも多数いらっしゃると信じています。いえ、信じたい。きっと今の世にこそ「ゴルディウスの結び目」が必要なのだと思います。絶対解けない結び目ではなく、私利私欲で目が曇り心が歪んでいる人には解けない「結び目」です。悪玉官僚と善玉官僚を見分けるために。それから、悪徳政治屋と善玉政治家を見分けるためにも。

2 : 湖の騎士 : July 2, 2009 11:30 PM

alien様 アリストテレスまで登場する現代の官僚さんたちをあてこするお話というのをぜひ拝読したいです。私がこの記事を発表する前に、すでにゴルディウスの結び目と官僚とを結びつけていらしたということで、考えが一致していて本当に嬉しく思います。私の友人の中にも、「いかに給料が安くとも、自分は国のため国民のために働くのだから、これでいいのだ」と思っている官僚が何人かいました。本当のノブレスオブリージュの念を抱いた人たちでした。しかし、官僚たちは年々「国家国民のためよりも自分たちの利益のために」法律を作り、システムを構築していきました。もはや彼らの中にノブレスオブリージュの思いを見出すのは難しいと思います。alien様のご友人の中に、昔ながらの立派な官僚がおられるというのは、心弾む思いです。それにしても心正しい人には解けて、邪な輩には解けない結び目があったらどんなに楽しいことでしょう。どうかこの構想を物語りの形で発表なさってください。

3 : 悠々 : July 3, 2009 10:50 AM

今の日本にも「法匪(ほうひ)」は蔓延しているし、国民はアレクサンダーのような英雄を待ち望んでいます。世襲議員からアレクサンダーは生まれてこないだろうし、与党、野党を見回しても「ゴルディウスの結び目」を解ける人物は見あたりません。日本がこのまま疲弊していくのも恐ろしいですが、このような行き詰まった国民の厭世気分に乗じて、ナチのような勢力が台頭してくる危険にも注意を払わなければなりません。
せめて白州次郎のような人が10人、いや5人でも今居てくれたなら、、、なんて考えます。

4 : alien : July 3, 2009 01:29 PM

もう一つ、「なぜ、フィルギス人に結び目を解くことができなかったか」について官僚さんへのあてこすりエピソードとは全く別に、「胸がキュンとするほど、ロマンチックな悲劇」の方向性も考えられるのではないかと思いました。(具体的なエピソードは考えていませんが。)たとえば、日本人が「伊勢神宮のご神体である鏡を破壊して見せよ。さもなければ滅びるであろう」と言われたらどうするか?物理的には不可能ではなくても、畏怖、文化への愛情、信仰心など様々な精神的な理由でそれに手を染めることはできないと思う人は大勢いるでしょう。フィルギス人も神託を備え、美しく、世界に比類のない自国文化の誇りである「結び目」を愛していて、正解を知っていても断ち切るなんてできなかったとしたら…そして、そのために滅んだとしたら……胸がキュンとします。こんな想像をしながら、あることに気がつきました。これは、日本の現実問題だと。「日本は被爆国である。だから、核兵器保有に手を染めるぐらいなら、無防備のまま他国の核攻撃にさらされて気高く滅び去る道を選ぶであろう。そんな高潔な心を抱いて滅亡した誇り高き民族もあったという伝説を残して…」ふぅーっ。とても、胸がキュンとするなどと言っていられません。
「コンドルは飛んでゆく」と「インカ帝国の輪だち」の話を知るまでは、わたしもどことなくこのような情緒だったと思います。多くの人がそうでしょう。
しかし、こうしている今も、300発以上の核爆弾が日本への攻撃可能な体制で常備されているんですよね。核兵器保有問題は、日本にとって難解きわまりない「ゴルディウスの結び目」ですね。きっとどこかに一刀両断のごとく単純明快な答えがあるのでしょうけど。

5 : 湖の騎士 : July 3, 2009 04:43 PM

悠々様 アレクサンダーや白洲次郎は無理としても、せめてもう少し「まともな人間」が出てきてほしいですね。政治家は自分が「出来が悪い」「頭が悪い」ことを自覚していないのが問題です。松下幸之助、ソニーの井深大、盛田昭夫といった創業者は本当に素晴らしい人たちでした。こうした逸材が出てきた業界というのが、「官僚統制の比較的ゆるい業界だった」と大前研一さんは言います。官僚は「自分たちは余計な口出しをしすぎて国の活力を奪っている」という自覚を持つべきです。でもどうやって彼らの意識を変えられるのか? 話はそこへ戻っていきます。

6 : 湖の騎士 : July 3, 2009 05:15 PM

alien様 人がふつう考えつかない独自の発想を披露していただき本当にありがとうございます。畏怖、自国の伝統、文化への愛などから、答えが分かっていても手を染められないことというのはあるでしょうね。「胸がキュンとするほどロマンティックな悲劇の方向性」というのは、私の想念の中には浮かんでこない領域でした。核弾頭という目の前にある脅威について、私は日本人の対処の仕方は「不真面目すぎる」と見ています。これを「現実の脅威」として見ている人はごくごく少ないのです。人々は「だれか(米国あるいは国際世論)がなんとかしてくれる」と思って真剣に対策を講じようとしません。核廃絶という理念は美しいし、これにはだれも異論がないでしょう。しかし、そんな出来もしない理想論を唱えている間にも脅威は日々に増大しているのです。この点で歴代の左翼の責任は重大です。唯一の被爆国として、目の前の脅威からいかにして身を守るかを、一切のタブーなく、情緒論を排しあくまで「理性的に」考えることが必要です。しかし戦後の教育の大失敗により、人々は論理的・理性的に物事を考えられなくなっています。それにつけ込むのが、「イメージ選挙」「情緒的平和論」です。ありもしない平和を看板に掲げる「パシフィスト」たちが日本を破滅に導く、と私は見ています。もっと明るく元気の出る話をしたいのですがーー。