View of the World - Masuhiko Hirobuchi

November 10, 2009

「壁」崩壊から20年  「自由」と「格差」 -

11月9日はベルリンの壁が崩壊してから20年目でした。ブランデンブルグ門を通り抜ける独仏英首脳とクリントン米国務長官、夜空に打ち上げられた花火の映像をご覧になった方は多いと思います。首脳の一人が「壁の崩壊はどんな辛いことでも耐えていればよりよい明日が来るというメッセージを世界の人々に送ったのだ」(大意)というコメントをしていました。格調高く力強いコメントでした。イギリスの The Economist 誌は「20 Years After the Wall」という特集を組みました。日本のほとんどのキオスクで売り切れているようです。しかし9日夜7時のNHKニュースでは、壁崩壊を喜ぶ市民2人の言葉は伝えたものの、旧東独市民を取り上げ彼の家まで訪問し「東ドイツにいた時のほうが生活は楽だった」と語らせていました。テーマは東西の「格差」でした。人々が文字通り「命をかけて」獲得した「自由」がどんなに貴重なものだったかについては触れられずじまいでした。こういう報道に接すると、日本の視聴者は「そうか、壁が壊れてもそういう差別があるのか」と思ってしまいます。旧い社会主義体制へのシンパシーを抱いているスタッフが選びそうなテーマです。しかし、旧東ドイツでは、この男が口にしたような不満を述べる自由もなかったのです。格差はたしかにあるでしょう。しかし人々が得た自由と希望の度合いと比べれば、それは問題にならないほど小さなものです。「もう一度旧体制に戻りたいか?」と聞かれれば、圧倒的多数の旧東独市民は「ナイン(否)!」と答えると思います。日本にも「旧社会主義の時代には、なんとかみんなが食えていた」という認識を持つ人々がいます。「自由」の価値が分かっていない人々です。

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COMMENTS

1 : niraikanai : November 12, 2009 12:28 AM

ご無沙汰しております。

9日は民放でベルリンの壁崩壊20年目のニュースを
見ました。20年前の春に、妊婦さんと旦那さんが壁沿いの
川を必死で泳いで西へ逃げる様子を流していました。
そんなにしてまで手に入れたかった自由。私には想像も
つきません。

NHKが旧東ドイツの人に「東ドイツにいたほうが生活が楽だった」というコメントを放送したことは知りませんでしたが、
そういったコメントを流したことにとても驚いています。
生活の楽さという視点ではなく、もっと広い意味で比較してほしいと思いますし、それを選んだNHKの意図もよく理解できません。

2 : 湖の騎士 : November 12, 2009 10:25 AM

niraikanai様 お元気そうでなによりです。NHKが旧東ドイツの住民に「東ドイツ時代の方が生活は楽だった」と「語らせている」(正確には「意図的にそういうことを言う人間を選んだ」)狙いは明らかです。社会主義体制にノスタルジーを感じている職員がおり、そういう「空気」が局内にあるためです。この人々は社会主義諸国では「正義」が行われているという、とんでもない錯覚を抱いていました。その錯覚を今も抱きつづけているのです。しかしかつての東欧で、親書の開封、電話の盗聴、密告などが行われ、住民には「移動の自由」さえなかったことを、この人々は知らないと見えます。今回のNHKテレビにコメントした男は、かつての東独でもし政府のすることに不満でももらせば、ただちに刑務所行きだったことを知りつくしているはずです。いつまでも社会主義から頭を切り換えられないために、西側に適応できない旧東欧の人間を、わざわざインタビューしているところに、日本の「世論誘導」の狙いを感じます。

3 : Sako : November 13, 2009 09:43 PM

台湾といい、ご指摘された東ドイツといい、NHKはどうしてしまったのでしょうか?
私は、映画「善き人のためのソナタ」の様な沈鬱な国で生活をしたくありません。
佐藤優さんが指摘されていましたが、ソ連にも格差はあったそうです。
ソ連映画「モスクワは涙を信じない」を観ても、格差があったことが分かります。

NHKの報道姿勢の低さに対して、The Economistが売り切れが出る日本の知的水準の高さに嬉しく思います。

4 : 湖の騎士 : November 14, 2009 10:45 AM

Sako様 旧社会主義諸国では、「格差」は所得のみならず「人間としての尊厳にも関わる格差」でした。共産党員はそれこそ大衆を見下し、貴族のように振る舞っていました。腐敗堕落もひどいものでした。そんなことは一般人の間では「常識」でした。NHKの中にはそうした現実に目を向けず、視聴者を誤った方向へ導こうとする「勢力」と「空気」があるのです。ご紹介いただいた映画は、評判を聞くのみでまだ見ていません。できるだけ早く見るようにします。ありがとうございました。The Economist が売り切れたことは、せめてもの救いです。

5 : 小龍 : November 15, 2009 05:55 AM

ご無沙汰しております。

この話題はテレビ朝日の報道ステーションでも持ち上げておりました。
その報道の仕方は日記にもあります「NHKの報道」と全く同じで私も疑問に感じました。
東側の旧体制は平等で教育も医療も受けられたが、壁が崩壊しまともな教育も職も失った―と報道していましたが・・・

確かに現実にそういう実態も一部あるのでしょうが、やはりそれを報道するならば「自由」の大切さも報道すべきであると思います。

6 : 湖の騎士 : November 15, 2009 11:14 AM

小龍様 お元気そうでなによりです。マスコミ人間の中には細部を拡大して、あたかもそれが真実であるかのような報道をする者がいます。今の社民党や民主党の中にも、この報道ステーションと同じ考えを持った連中がたくさんいます。「連合」の組合員もそういう考えが多いのです。細部を見て全体を見ることができない連中が、かつてナチス・ドイツと組んで国を滅ぼした教訓がまったく生きていません。

7 : 内海喜美子 : November 16, 2009 08:56 PM

広淵先生へ
 共栄大学ではお世話になりました。長いことご無沙汰しておりますが、いつも先生のホームページは拝見していますので、私はとても近くに感じています。
 共栄大学を卒業後目白大学大学院に入学しました。お陰様で1次審査、2次審査を通り今、修士論文執筆も済み来週提出の予定です。2月の最終審査がありますが来春の卒業を今から楽しみにしております。これも一重に、共栄大学で広淵先生はじめ諸先生から学ぶ楽しさを教えて頂いた賜物でございます。本当にありがとうございました。寒さも厳しくなりますが、どう。ぞお体を大切にお過ごしくださいます様にお祈り申し上げます                      内海喜美子

8 : 廣淵升彦 : November 16, 2009 10:04 PM

内海喜美子様 お久しぶりです。社会人入学をされ、無事に卒業なさっただけでも大仕事なのに、さらに大学院修士課程まで修了される意志力に敬服します。大きな希望に向かって近づいておられるご様子は本当に頼もしいかぎりです。よいお話を聞かせていただいて、心から御礼申し上げます。