View of the World - Masuhiko Hirobuchi

November 23, 2009

タキシードは競馬場では着ない -

11月22日(日曜日)NHKハイビジョンは朝9時から3時間番組を放送しました。「華麗なる英国競馬・三浦皇成が武者修行」というものです。競馬通の作家、高橋源一郎氏も招き、若き天才騎手として売り出し中の三浦騎手が、本場イギリスの名門厩舎で勉強する様子を描いていました。全体としての出来は、まずまずの成功だったといえるでしょう。単に英国競馬を紹介するというのではなく、競馬を通しての英国文化の本質に迫ろうという姿勢がはっきりしていました。エプソム・ダービーとか、ロイヤル・アスコットといった言葉も飛び出し、競馬好きでない人にも十分楽しめたと思います。
しかし、長い時間と多大な制作費をかけたはずのこの番組には、致命的なミスがありました。オードリー・ヘップバーンが主演した映画『マイ・フェア・レディ』の一場面を映し出し、「この映画にもあるように、ロイヤル・アスコット競馬には、紳士の皆さんはタキシードに山高帽といういでたちで出かけます」(大意)というナレーションが入ったのです。「タキシード」というのは大間違いです。画面に映っている紳士諸君は、もちろんタキシードなんか着ていません。大体タキシードというのは、夕方から始まるパーティやディナーの席で着るもので、競馬場に着て行くものではないのです。画面をちょっと注意して見れば、映っているのはグレイのフロックコートだと分かるはずです。細かいことを言えばフロックコートというのは燕尾服が進化してできたものらしいのですが、そんないきさつはともかく、タキシードとの違いは一目で分かります。
一国の文化を紹介する目的の番組で、上流階級が集うアスコット競馬に着てゆく衣服の解説が間違っていたのでは、番組としてはぶち壊しではないでしょうか。このナレーションをスタジオにいる出演者一同は聞いているはずなのに、だれ一人として訂正しませんでした。
私はどうでもよいことに目くじらを立てているわけではありません。コンマとピリオドの違いを論じているわけではないのです。この番組を見た視聴者の大多数は、ロイヤル・アスコット競馬にはタキシ-ドを着てゆくものだと思い込んだことでしょう。もしこれを見た男性が将来イギリスに赴任することになり、この競馬に招待された時に、タキシードを着ていったら大恥をかくことになるでしょう。そこまで行かなくとも、欧米の紳士淑女と会話する際に、「アスコットへはタキシードを着てゆくものだ」といった言葉がもし口から出たとしたら、その人は「常識なき人」として無言の軽蔑を受け続けるることは間違いないと思います。
服装のような、歴然と目に見える「物」についてさえ、こんな初歩的な間違いをしているのが、天下の公共放送なのです。目には見えないもの、「歴史認識」「価値観」「理念」「外交常識」といった物事についても重大な誤解をまき散らしているのが実情です。その弊害ははかり知れません。「中途半端な対外理解で、人々を惑わせてくれるな」とあらゆるメディアの人々に言いたい気持ちです。

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COMMENTS

1 : 悠々 : November 24, 2009 10:45 AM

私もこの番組は冒頭の部分だけ見ていましたが、タキシードの件は見なかったと思います。
おそらく番組の制作者はタキシード=礼服・どこにでも通用する、と勘違いしていたのでしょう。
この放送局は私でさえ分かっているような常識的なこともよく間違えています。字幕の間違えとかは 時たま訂正していますが、内容の間違えなどの訂正放送は見たことがありません。気付かないのか、分かってもほおかぶりするのか、いずれにしても間違いには不感症のようです。
ジャリタレが生放送で間違えたりするのはご愛敬ですが、準備に時間をかけ、大金を使って制作した番組にミスが多いのは局の姿勢の問題だと思います。
公共放送で間違った放送をすれば視聴者は間違った情報を正しいものと思ってしまいます。
局外の専門家に番組放映前に監修してもらうようなシステムが必要だと思います。

2 : 湖の騎士 : November 24, 2009 11:59 AM

悠々様 コメントありがとうございます。ご指摘のとおりで、タキシード=礼服 というふうに安易に錯覚しているのだと思います。まず台本の段階で発見できるミスであり、次にスタジオで録音録画する時に、」ディレクターなりアシスタントが気付くべきです。訂正はまずしないでしょう。こういう間違いが「事実」としてまかりとおって行くのです。恐ろしいことです。