View of the World - Masuhiko Hirobuchi

November 30, 2009

外交音痴とミススペリング -

前回は自分の美容院の看板に「ヘアーデザイン」のつもりで「ヘアーデシング」と書いている店主の話を書き、前々回は競馬場に「タキシード」を着てゆく(実はフロックコート)というナレーションを入れたテレビ番組のことを書きました。小さなことに目クジラを立てているわけではありません。ここに紹介したミススペリングや服装についての錯覚は、国の根幹にかかわる外交や安全保障といったものにまで及んでいると思えるからです。最近の閣僚やワイドショーの司会者の発言を聞いていると、「あ、この人は外交というものをまったく理解していないな!」と思えることがしばしばです。「diplomacy(外交)」「security(安全保障)」「treaty(条約)」「contract(契約)」といった言葉の意味やスペリングが、きちんと頭に入っていないように見えることが実に多い。いちばんの懸念は、外交における「継続性」というものを理解していないことです。あるワイドショーの司会者は、「政権が変わったのだから、前政権が決めたアメリカとの約束はゼロから見直すのが当然」と話しています。しかし「前の政権」もまた、国民の多数によって選ばれた正統政権なのです。アメリカとの「約束」は、「日本国」が交わしたものであって、自民党という「私党」が交わしたものではありません。こうした約束や条約は、引き継ぐというのが、近代国家における常識です。継続性があればこそ、他国は日本という「国」を信じることができ、日本の国際社会における信頼も保たれるのです。いかに「床屋政談」的な俗論とはいえ、テレビ電波に乗った発言の影響力はきわめて大きく、自民党のしたことをことごとく否定したい民主党にとっては、それこそ百万の援軍を得たという思いでしょう。しかし、閣僚たちの頭の中身も、国際常識に欠けるこの司会者の頭の中身も「ヘアーデシング」と書く美容院店主の頭の中身とほとんど違っていないとしたら、どうでしょうか? アスコットの競馬に、タキシードを着てゆくのが正しいマナーだと思い込んで外交を推進されたのではたまったものではありません。俗論が世論を動かし、政治を動かしてゆく危険を感じます。「米英と戦うべし」との俗論が、どういう悲惨な結果を招いたかを、あらためて考えてみたいこのごろです。

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COMMENTS

1 : mayu : December 1, 2009 11:23 PM

始めてお便りいたします。
いつもブログを拝見して勉強させてもらっています。
以前、ヒトラー政権誕生前夜を思い起こす云々という湖の騎士様の予言が、不幸にも的中してしまったようです。
更に、恐ろしいのはマスコミが明かに公平性を欠いていることです。あまり政治に関心の無かった私でも、この夏の異常なのりピー騒動でさすがに何かおかしいと感じて、いろいろと調べ始めました。知るほどに背筋が寒くなる思いで、このまま何もせず見過ごすことはできない!自分にできる事は本当に小さいけれど、ちりも積もれば、の思いで請願書やメールを送っております。
これからも、貴ブログでいろいろと教えて頂けるのを楽しみにしております。

2 : 悠々 : December 2, 2009 08:08 AM

条約や国同士の協定・協定は国と国との約束なのですから、たとえ政権が変わっても継続するというのは自明のことです。ワイドショウの司会者は失格ですね、そんなことは中学生でも分かっていることだと思います。
我が国の政権が変わったからと言って条約が無効になることはないのですから事情が変わったからと言って、簡単には変えられないわけです。明治政府が幕政時代に交わされた不平等条約の改定にいかに苦労したかは、歴史教科書にも載っていることです。沖縄の基地問題にしても沖縄県民の受難をいくらかでも和らげようとアメリカと交渉するのは当然必要ですが、今までの経過を一方的に破棄することは出来ません。粘り強く交渉を重ねてほしいものです。

3 : 湖の騎士 : December 2, 2009 10:42 AM

mayu様 初めてのお便りありがとうございます。日本は非常に危険な水域に入りつつあります。しかしマスコミの主流はそれに気付いていません。国内のことしか目に入らず、のりピー的なことばかり追い回す社会部や永田町の噂話ばかり伝える政治部が幅をきかせすぎて経済がどうなっていくのか、日米関係がどんなに危ないことになっているのかを伝える見識とエネルギーが不足しているのです。国民の大多数は、日米関係が損なわれても「自分の生活には関係ない」と思っているようです。しかし1930年代の国際政治を少しでも学んだ人は、日本の「感情で動く世論」が、ナチスに力を与えたドイツのそれと非常によく似ていることに思いいたるはずです。この状況に危機感を抱かれ、各方面に請願書やメールを送っておられるご努力に敬意を表させていただきます。

4 : 湖の騎士 : December 2, 2009 11:01 AM

悠々様 ご指摘のとおりです。かのワイドショーの司会者も政権の首脳部も、国際条約の重みも外交における「言葉」の重要性もまったく理解していません。沖縄の「県民感情」に媚びて日本を危うくしています。しかし、沖縄の基地反対運動家の中には「国際的な反基地闘争のプロ」が「絶好の稼ぎ場」として多数入り込んでいる、ということを、月刊誌「選択」の12月号が伝えています。大マスコミにはあまり載らない記事です。「沖縄タイムズ」や「琉球新報」は、こうした事実はまったく報じません。国際間の約束は政権が変わっても継続するのが当たり前ということを、悠々様は明治時代の不平等条約にまでさかのぼってお書きになっていますが、説得力のあるご指摘です。これで政権の「今」の迷走ぶりが、くっきりと目に見えてきた読者の方も多いと思います。ありがとうございました。

5 : alien : December 4, 2009 12:03 PM

最近になって遅ればせながら鳩山首相の「A New Path for Japan」や憲法試案を読みました。民主党の憲法試案も鳩山試案と同一の内容ですね。民主党の国家ヴィジョンは、東アジア共同体が核となっているわけですが、日本の国家主権の部分的な移譲あるいは共有も構想の中に入っており、これは、もはや国民がある程度共有している国家観の範囲内での政権交代とは違うものだと改めて実感しました。先の選挙は、自民党か民主党かの選択ではなく、実質は同盟国としてアメリカを選ぶか中国を選ぶかという選択だったのだと気がつきました。民主党は本音では日米同盟を棄損することなど気にしてないのではないでしょうか。沖縄の米軍基地問題も、県民感情を口実にして米軍を県外かできればグァムに追い出して中国軍が沖縄周辺で活動しやすいような環境作りにいそしんでいるとしか私には見えません。自衛隊と中国人民解放軍の共同救援訓練やさまざまな交流の強化も合意されたらしいですね。民主党は東アジア共同体実現に向けてバリバリと突き進んでいますが、国民はその本質的な意味を知らされていませんし、支持も許可も与えていません。しかし、民意を問え、国際ルールを守れ、と言ったところで、独裁政党は確信犯ですし聞く耳を持つとは思えません。問題は、請願など全く気にしないであろう与党をどうやって押しとどめて、どうすれば一刻も早く民主主義を取り戻せるかということだと思います。4年はあまりにも長すぎて恐ろしいです。

6 : 泥田の落武者 : December 5, 2009 12:31 AM

湖の騎士様、

このような摩訶不思議、奇妙奇天烈、低劣無比、非常識の極みのような議論はヨーロッパではあり得ないでしょう。かの地では一応、政治家から国民まで、安全保障とは、という地続きの国家が保有する本能があると思われます。またイギリスも大陸ヨーロッパの安全保障は自国の安全保障に直結するという歴史的事実を、身をもって経験しています。

我が国は先の大戦以来、60有余年に亘って安全保障上の危機というものに直面してきませんでした。(或いは目をそむけてきた。)また、軍事や安全保障に個人的興味を持つだけで、「戦争が好きだ」というレッテルを貼られるという異常な社会環境下にあります。

私は周囲に1990年代の後半から、「21世紀の前半、アジアは大乱の時代を迎える。」と周囲に言ってきましたが、異常者扱い以上のものではありませんでした。

21世紀、東アジアのホットポイントは東シナ海であり、南シナ海です。そしてそこに影響力を行使するには沖縄と台湾の保持は絶対条件です。この認識を政治家、或いは国民が共有しない限り、沖縄の基地の問題は決して解決しません。

私には現在の日本が大戦間期のフランスとだぶってなりません。国民の厭戦感情と、平和主義者の台頭、軍の退嬰的な軍事戦略、まさに現在のどこかの国と同じではないでしょうか。

現実を直視せよ、そして現実に基づき判断し、現実に対処するべく行動せよ。「安全保障は常識を超えるものではない。」これはまさしく金言であると思います。

7 : 湖の騎士 : December 5, 2009 01:40 PM

alien様 民主党の外交指南役は寺島実郎氏だそうです。反米親中的な言動が目立つ人です。中国との貿易額の方が対米貿易より多いと言い、物事を表面の数字でしか見ることができない御仁です。鳩山首相は完全にこの人の催眠術にかかっている気がしますが、彼の影響力がなくても元々頭がおかしい人だと思います。選挙民は本当に危険な選択をしました。沖縄から米軍を追い出したいというのが、民主党の本音だというご指摘は実に正しいと思います。中国は、頭の弱い現政権を手玉に取っている感じです。仰せのとおり、民主主義が復活するまで4年待たなければならないというのは、あまりにも長すぎます。

8 : 湖の騎士 : December 5, 2009 01:52 PM

泥田の落武者様 お書きになっているのと同じ懸念を抱いている人は多いと思います。しかしメディアはそういうことは伝えません。アジアの近未来は、東アジア共同体どころではないはずです。鳩山政権は、そんな遠い未来の、実現してもあまりメリットのない共同体構想よりも、目の前の経済危機の克服、安全保障観なき国民の啓蒙、すぐそばまで来ている中国の軍事力の現実にどう対処すべきかを考えるべきです。しかし民主党の支持母体が労働組合であるという事実は、ゆるがせません。およそ日本にとってマイナスになることにばかり力を注いでゆくでしょう。日本の近海の航行の安全が、米海軍によって守られているという当たり前の常識がない日本は、本当に危険な水域にさしかかっています。