View of the World - Masuhiko Hirobuchi

March 02, 2010

盛田昭夫(元ソニーCEO)は危機をどう乗り越えたか? -

3月2日、日本を代表するジャーナリストの先輩から電話がかかってきました。今から30年ほど前、ソニーの社長だった盛田昭夫さんが、石原慎太郎さんとの共著で「No(ノー)と言える日本」という本を出版し、これが「反米的」と見られてアメリカで大きく取り上げられたことがあったが、このとき盛田さんはどうしたかーーという話でした。批判が盛田個人に向けられたのならまだしも、この本への反感がソニー製品への反発を呼び、経営に大きなダメージを与えることになっては一大事です。しかし、人一倍国際感覚にすぐれ、アメリカに友人も多く、アメリカの世論がどう動くかを知りつくしている盛田さんは、まずABCテレビの「ナイトライン」に出演し、名司会者テッド・コペルと本当に打ち解けて話をしたそうです。それが、ご本人にも分かるほど手応え十分で、盛田さんは「この出演は成功だった」と確信し、喜びを声に表してこの著名なジャーナリストの自宅に電話してきたそうです。「よほど嬉しかったようだ」とその先輩は言いました。盛田さんはさらに、CBSテレビの看板番組「シックスティ・ミニッツ」のインタビューを、箱根の別荘で受けました。インタビューアーは女性のダイアン・ソイヤーだったらしいですが、この硬派番組もまた本当に大きな影響力を持っていたのです。これら2番組に出演したことにより、「モリタ」および「ソニー」へのイメージが、格段によくなったことは言うまでもありません。テレビの影響力を知り、「ナイトライン」や「シックスティ・ミニッツ」の威力を本当に分かるセンスというか嗅覚は、盛田さん独特のものです。私は出演番組は見ていませんが、おそらくユーモアをまじえ、気取らず、嘘をつかず、誠心誠意自分の信ずるところを率直に語ったにちがいありません。不必要な謝罪などはせず、意味不明の微笑も浮かべず、堂々としてはいるが依怙地ではない、人間としての総合力がそのまま画面に出ていたのだと思います。トヨタの豊田章男社長も、こういう偉大な先輩がいたことをあらためて知ってほしいと思います。着眼のよさと自らの決断力、メディアを選ぶセンスのよさを、CEOは持つべきです。会社も国もリーダーの力量によって、運命が変わってきます。これ以上いうのは野暮かも知れませんが、鳩山総理にも、すぐ撤回するような失言を繰り返していないで、自分の一言が国民の幸不幸を決めるのだという、固い決意と慎重の上にも慎重な言動をお願いしたいものです。

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COMMENTS

1 : niraikanai : March 3, 2010 02:17 PM

>必要な謝罪などはせず、意味不明の微笑も浮かべず、堂々としてはいるが依怙地ではない、人間としての総合力

こういった姿勢、現在の日本で「なかなかいいな」と思える人は少ないですね。
日本人だから曖昧な振る舞いでも、愛想笑いをしてもいい、そんな風にあきらめているような気もします。
自分も身につまされます。

前回のコラムにもありました、ちゃんとした「喧嘩の仕方」を身につける機会はだんだんと減っているように思います。
小さい頃の、喧嘩した経験も、大人の「交渉」の世界に大きく影響するのでしょう。

ただ虚勢を張るのでなく、自己中心的になるのでもないつよい、強い発言力を、政治家に求めます。

2 : 湖の騎士 : March 3, 2010 09:13 PM

niraikanai様 盛田さんは傑出した方で、世界的な知名度も抜群でした。心に卑しい計算などないので、辛辣なメディア人間からも信頼され、とくにアメリカ人は心を開きました。私はニューヨークでもロンドンでも東京でも、何度もお目にかかる機会があり、そのたびに感心させられることが多かったものです。しかし、これほど有名でなく、これほど英語もお出来にならない方でも、「不必要な謝罪などせず、意味不明の微笑も浮かべず、堂々としてはいるが依怙地ではない、人間としての総合力を備えた」日本人は当時はまだかなりいたものです。そういう人々が年々減っています。日本人全体の精神面の劣化、教育水準の低下とも関連しているようです。このままでは迫り来る危機は乗り切れません。なんとかしなければと思いつつ、非力ながら発信を続けているところです。

3 : 悠々 : March 5, 2010 05:05 PM

日本では老舗と言う素晴らしい営業形態があって良い品物を心のこもったサービスで提供してくれます。
その老舗が会社組織になって先代の或いは先々代の心意気と言って物が受け継がれなくなってしまい、暖簾に胡座をかいた不届きな商売をする店が多出しました。
政治家も会社経営者も2代目、3代目が多くなって、創業者の心意気が伝わらなくなったのか、頼りない人たちが幅をきかせてきています。
ソニーの盛田さんや井深さんなどの東通工を立ち上げた方々の偉大さを思うと今の日本を牽引すべき人たちがどうも頼りなく見えて仕方ありません。
先生が頑張っていろんな発言をされているのがもっと浸透して欲しいと願っています。

4 : 湖の騎士 : March 5, 2010 09:33 PM

悠々様 ありがとうございます。日本のリーダーが頼りなく見えるのは、こちらが年を取ったからではありません。韓国や中国、それに他の先進国のリーダーはもっとしっかりしています。おそらく子供のころからの鍛えられ方が違うのだと思います。そこをマスコミも官民も自覚しないと、このままでは日本は衰退の一途を辿ってしまいます。本当に非力ですが、発信努力を続けて、もっと多くの人に爆発的にアピールできるようになりたいと願っています。どうかよろしくお願いします。

5 : alien : March 8, 2010 02:17 AM

以前、日本の大手企業の方からこんな話を聞いたことがあります。「海外赴任から帰ってきた人は考え方やテンションが周囲と違うので‘病気’と言われる。その‘病気’が治るには海外赴任の期間と同じ月日を要する。つまり一年間海外赴任していたら、‘病気’が治るのにも一年かかる」と。私はその企業のロンドン赴任組の方々と現地で仲良くさせていただいていましたが、その後、これらの貴重な海外経験をもった方々は一人残らず全員、40代半ばでその企業を退職なさっています。みなさん、ロンドンでは社長とか副社長、経営企画室長等々重責を果たしていらした方ばかりです。海外勤務の経験があるというと、よく「英語ができていいですね」といわれますが、実は英語の能力は大きな問題ではなく、本当は外国の人の考え方やメンタリティを理解していかに渡り合うかということが重要なのだと思います。日本では英語力ばかりが取り沙汰されて、この最も重要な点は評価されません。先に触れました大企業も、外国人や外国企業と渡り合って貴重な経験を積んだ人達を「病気」扱いして軽んじ、本来なら企業力として蓄積されるべきノウハウを安々と失ってしまいました。日本の企業の中で圧倒的多数を占める日本から出たことのない人達が、海外勤務経験の意義を正統に評価し活用するというのは難しいと思いますが、どの企業にも何とかこの点を乗り越えて欲しいと願うばかりです。
話が飛んで恐縮ですが、政治家にしても「英語で(メモを読みながら)スピーチができてすごい」という段階ではいけないのではないでしょうか。政治家にも英語で外国とわたり合って欲しい、そして勝って欲しいと思います。日本ほどの大国が輩出する人材ならば、本来、決して高い要求ではないと思います。

6 : 湖の騎士 : March 8, 2010 10:59 AM

alien様 お書きいただいたことは、すべて思い当たります。私も海外特派員として8年を過ごしたので、本社の同僚からはあるいは「病人」と思われていたのかも知れません。しかし途中退社もせず、会社人間としての生活を全うしたのは、勇気がなかったからか、あるいは居心地がよかったからでしょう。自分のことはともかく「英語ができる」という一点だけで海外勤務経験者を評価するというのは、見当違いもはなはだしいです。明治大正時代では「洋行帰り」ということで、その経験や見識が評価されましたし、明治時代に外国人教師を超高給で迎えて欧米の知識・技術を学ぼうとした精神はどこへ行ったのでしょう? とにかくペーパーに書いた英語を読める政治家を「英語ができる」として持ち上げるというのは、政治記者のレベルが低すぎます。盛田さんの英語は発音に関しては頭が空っぽの帰国子女よりは劣りましたが、中身・文章構成・説得力・ユーモア感覚では相当なものでした。こういう方を「国家戦略」として至急養成することが必要です。日本が生きてゆく途は「頭脳立国」しかないのですから。