View of the World - Masuhiko Hirobuchi

November 27, 2011

ビターレモンが日本から消えた日 -

前回の記事で「苦味を愛する」ことの大切さを書きました。その中に「近ごろは苦味のきいた野菜がさっぱり出回らなくなった」と嘆く八百屋のご主人のコメントを紹介しました。これと似た話で、強烈な印象を私に与えた一例を申し上げたいと思います。ビターレモンの飲料で「シュウェップス」という人気銘柄があります。パーティなどで、お酒を召し上がらない人が好んで口にするものです。アルコール類は飲みたくない。かといってジンジャーエールなどでは甘くていけない。大人の口に合うような、苦味のきいた飲み物をという人にうってつけの、たしかイギリス製の飲み物でした。私もあまりお酒には強くないので、パーティなどではよくこのシュウェップスを口にしていたものです。ところが10年ほど前のある時、都心のホテルで開かれたパーティでこれを注文したところ、ウェイターが「あいにくございません」というではありませんか。つい数か月前までこの同じホテルのパーティで飲めたものですから、不審に思い「どうしてなくなったのですか?」と聞きました。すると答えは「あの独特の苦味が日本人の口に合わないとかで、さっぱり売れなくなったもので、いまでは輸入していないらしいです」とのこと。これは衝撃的な出来事でした。「日本人の苦味ぎらいはここまできたのか!」と思い、「このまま行けば日本は本当に危ない!」と真剣に危惧しました。「ビターレモンひとつで言うことが大げさすぎるよ」と思われる方もいるでしょう。しかし一国の衰退というのは、こういう些細で人々の気が付かないところに潜んでいるものだーーと私は思っています。その後調べたところでは、シュウェップスは2年間ほどの空白ののちに再び日本でも手に入るようになったとか。願わくば、これを愛飲する人がある程度はいてほしいと思います。なんだかこんなことを書くと飲料会社の回し者のように思われかねませんが、そんなスケールの小さな話をしているのでないことはおわかりいただけると思います。この銘柄でなくてもかまいません。ビターレモンがパーティー会場から消えるような国になってほしくないと思うのは、私だけではないでしょう。

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COMMENTS

1 : 悠々 : November 27, 2011 10:10 PM

シュウェップス,netで探したら有りました。
1本100円でした。
私もジントニックを飲む時に近くの店ではトニックウオーターが無いのでなるべく甘みの少ないサイダーなどで代用していましたが、先生のご記事を見てシュウェップスをオーダーしました。
何で食べ物や飲み物がみんな甘くなくてはいけないのか、困った風潮です。

2 : 湖の騎士 : November 28, 2011 06:00 PM

悠々様 コメントありがとうございます。早速ネットでシュウェップスのことをお調べになり、オーダーまでなさったとのこと。迅速な行動力に感心しました。甘いもの柔らかいものばかりがもてはやされるご時勢ですが、苦いもの、渋いものが人気を盛り返す日も来ると思います。もう少しきりっと引き締まった世の中になってほしいですね。

3 : Sel : November 30, 2011 11:49 PM

苦味や酸っぱさといった本来人間が苦手な味に何度も挑戦して克服することは、仕事での挫折や失恋、人間関係などを壁にぶち当たったときに、どうにか乗り越えて、人生をより味わい深く豊かなものにしていくことと似ている気がします。

私の周りの20代前半~後半の人たちの中に数回の挫折で「人間関係がうまくいかなかった」「仕事がうまくいかなかった」「もう傷つきたくない(ちなみに「傷つきたくない」「争いたくない」「失敗したくない」の3つがいまどきの男性の特徴らしいです)」という理由で簡単にニートやフリーター、さらに友人との付き合いを絶ってしまった人たちがいます。


子供の頃から苦味はまずく避けるものではなく、色々な味の冒険をさせて、苦味も慣れれば美味しくなり、苦味の中にも美味しさがあるということを発見させられる親が増えることを私も願います。


味覚に関連のあるものとして学校給食、味覚教育、味覚を曖昧にする甘味、という切り口で調べたことを以下に挙げます。

■学校給食
「エクレアパン、白菜のクリーム煮、黄桃ヨーグルトがけ、牛乳(東京都内)」「生クリームサンド、焼きそば、 牛乳(三重県内)」といった奇妙な献立が学校給食で出されているといいます。子どもが好きなメニューのほうが食べ残しが少なく無難と考えてたのでは、ということだそうです。

■味覚教育
一方、フランスでは「味覚の一週間」という味覚教育イベントが毎年実施されていて、今年から日本でも本格的に開催されたそうです。この期間中は日本各地の小学校やレストランなどで、五感を使って味わうことの大切さや食の楽しみを体感できる様々な取り組みが実施されるそうです。
子供の嫌いな「苦み」を「味覚の授業」で覚えたことにより、「苦み」と「甘み」はそれぞれ味のひとつであるということが理解でき、苦いものも、「苦いから嫌い」なのではなく、「これが苦みだよ」と言いながら、食べられるようになった子もいるそうです。

日本の将来に希望が持てるイベントです。

■味覚を曖昧にする甘味
「人間の甘味に対する対する欲求は強烈で、舌に満足感を与えるだけでなく酸味、苦味などを麻痺させる。甘味のもつ心地よさに、舌はついついだまされてしまうのである。マトンのような匂いが強く、癖のある肉に甘味のあるソースを使って匂いをごまかしたり、少し古くなって味の落ちた魚を煮る時に砂糖を多く使うのは、人間の甘味に対する強い憧れを利用しているのである。一九世紀以降、常時同じ味を保たなければならない加工食品や清涼飲料水が大量製造されるようになるが、そこでも味覚を曖昧にする目的で砂糖あるいは人口甘味料が大量に混入されている。ほかの味を消すという甘味の性質が利用されているのである。」…(知っておきたい「味」の世界史 (角川ソフィア文庫)より)

人の味覚が甘味によって簡単にも騙されてしまい、隠されているものに気づかないことは危険です。この甘さは味覚以外にも言えることではないでしょうか。


味覚と精神と行動は深く関わっていることを改めて考えさせられました。

4 : 湖の騎士 : December 1, 2011 09:00 PM

Sel様 非常に貴重なコメントをありがとうございます。希望の出てくるイベントの話など私の知らないこと気付かないことをたくさん教えていただきました。もう一度あらためてお礼の言葉を書かせていただくつもりです。