View of the World - Masuhiko Hirobuchi

March 16, 2012

恫喝と謀略のペルシャ湾 -

イランの核開発に対して、欧米各国中心の制裁措置が強化され、イラン中央銀行との取引も禁止されることになりました。多くの日本人にとって、イランは距離的にずいぶん遠く感じられ、マスコミで緊迫した情勢が伝えられても、それが「戦争」に結び付く可能性はあまり感じていないようです。仮に戦争が起こっても、核施設への限定攻撃であり、中東さらには世界をゆるがす大動乱にいたるという危惧を抱いている人は少ないでしょう。しかし今、イランを覆っている空気は、日本のメディアだけに接していては想像もできないほど険悪なものです。現在ペルシャ湾に入っているアメリカの空母に対して「撃沈せよ」とか「ペルシャ湾は彼らの墓場になる」といった激烈な文章が、ネット上に飛び交っています。「欧米が我らを恫喝するのなら、我らも武力を持ってこれに応じる」という恫喝です。こうした激烈な表現は、イラン人特有の「誇張癖」もあるでしょうが、こういう言葉が拡散して行くと歯止めがきかなくなる恐れがあります。アメリカとイスラエルが共同作戦により、イランの核開発組織のコンピューターにサイバー攻撃を仕掛けていることは、公然の秘密とされています。中東の新聞やテレビでの演説などを収集しこれを英語に翻訳している「MEMRI」(中東メディア・リサーチ・インスティテュート)という組織があります。このレポートを読んでいると、日本が世界危機に対していかに感度が鈍いかがよく分かります。戦争や経済危機に際して必要なことは、「正確な情報に基づく国民の判断力」です。いま呑気に構えて海外情報に関心を払わない人々が、いったん戦争が始まるとたちまちパニックにおちいり、感情的に行動する人々です。彼らがメディアや政府に対してぶつける情緒的「世論」が、国の判断を誤らせる例を、我々は過去にいくつか見てきました。まだ戦火が起きないうちに、「恫喝と謀略のペルシャ湾」にしっかりと目を注いでおいていただきたいと思います。

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COMMENTS

1 : Sako : March 16, 2012 11:29 PM

MEMRIというのを初めてしりました。
先生の仰ることに賛同します。日本人には、イランは遠いです。
イランがシリアと繋がり、シリアが核開発で北朝鮮とつながっている。北朝鮮とイランがミサイルでつながっているという切り口で、先生が広められては如何でしょうか?
そこから、パキスタンの話も絡めると重層的に広がって面白いと思います

2 : 湖の騎士 : March 17, 2012 11:55 AM

Sako様 貴重なご示唆をありがとうございます。いま日本人は自分たちの命が脅かされているニュースに接しても、現実感をもって受け止められなくなっています。この記事を書いた直後に北朝鮮は4月に「衛星(本当はミサイル)を打ち上げる」と発表しました。野田首相は抗議のコメントを出しましたが、その一方で中井元国家公安委員長を北の代表に会わせようとしています。外交交渉というのは命がけでするものです。中井氏の過去の言動を見ても、北の代表と会う資格は皆無であり、野田氏の「外交音痴」ぶりはひどいもので、またしてもミスキャストです。北がイランの核開発を助けているという認識も、民主党の仲には希薄です。ペルシャ湾の緊張が、永田町にはほとんど伝わっていないのは、空恐ろしいことです。

3 : Sako : March 18, 2012 08:47 AM

北朝鮮は、強勢大国の軍門を開くなどと言っていますが、正恩体制は有言実行です。日本はミサイルを撃ち落とすと言っていますが、前回同様に何もしないと思います。
辺真一著「金正恩の北朝鮮と日本」を読み、もう少し調べてみようと思います。
先生は、今どの様な本を読まれ、世界情勢を勉強していらっしゃいますか?

4 : 湖の騎士 : March 18, 2012 08:58 PM

Sako様 北朝鮮は今の強気を装った姿勢だけが唯一の生き残り策だと思っているのでしょう。未熟な金正恩を支えるブレーンが示唆するとおりのことを、この三代目は口にしているのだと思います。辺真一氏の本は私も読んでみます。私が最近読んだ本で、最も具体的な事実を紹介したものは、古森義久氏の『「中国の正体」を暴く』(小学館新書)でした。著者とは思想的立場を異にする人にもぜひ読んでもらいたい本です。

5 : FUMIHITO : March 19, 2012 10:48 AM

こんにちは。

アメリカは大統領選挙もあり直ちにActionは起こさないと思いますが、イスラエルの動向がとても心配です。

中東戦争は避けられないかもしれませんね。

6 : 湖の騎士 : March 19, 2012 11:21 AM

FUMIHITO様 コメントありがとうございます。日本の新聞のイラン危機への理解はまったく見当外れだと思います。社説などでは、イランのメディアがどういうことを伝えているかなどを全く知らず、イスラエルの国民感情・世論といったことにも鈍感すぎます。「何とか外交交渉で解決を」(3月7日「朝日」社説)などというだけです。外交交渉で解決できるなら、誰も戦争などしません。問題はもっと深刻です。イスラエルは本当に「国家存亡の危機」だと思っています。イランは「欧米とイスラエルがそこまでやるのなら、我らもやってやろうじゃないか」という態度です。こうした感情的対立の裏で、どれほど厳しい外交的駆け引きが行われているのかを考えておく訓練が、日本のメディアにも政府にも、国民全般にも必要です。最悪のシナリオまで想定した知的訓練をしていれば、いざという時に感情的になるのを防げます。今は非常に重要な時です。