View of the World - Masuhiko Hirobuchi

June 06, 2012

そろりそろりと猿をつかまえる イギリス風「根回し」 -

だいぶ昔のこと、ロンドンの高級紙「ザ・タイムズ」(日本では「ロンドン・タイムズ」と呼ばれることが多い)」に働いていたPさんという苦労人のおじさんが、よく使っていた言葉を思い出します。関係する部局の間に、揉めそうな案件が持ち上がると、Pさんはよく言ったものです。「そろりそろりと猿をつかまえにゆくのさ Softly, softly, catching a monkey --」。独特の人徳とユーモア感覚のあるPさんはそう言って抜き足差し足で去ってゆきました。ほんとうにサルをつかまえに行くような足取りでした。彼はひょうひょうと関係者の間をまわり、いつのまにかみんなの同意を取り付けて揉め事の芽をつみ取り、四方を丸くおさめていました。私はこの「やわらかくやわらかくサルをつかまえる」という表現が好きでした。日本語に訳すとどういうことになるかと考え、「細工はりゅうりゅう仕上げをご覧(ごろう)じろ」とでも訳すとぴったりくるのではないかと思いました。これはアメリカ人には不得意な「イギリス風の根回し」とでもいうものだろう。日本人は会議の席で議論の末に物事を決めるのが苦手で、重要なことはあらかじめ「根回し」をして、関係者の同意を取りておく。これがまた「アンフェアだ」と、とくにアメリカ人から批判される。しかし人間の社会ではどこでも多少の根回しはつきものではないか? 要は「程度問題」だ。現にビジネスではアメリカ人より何百年も先輩のイギリス人は、猿を媒介にして重要案件の事前調整をしているではないか! と私は思いました。それにしても「そろりそろりと猿をつかまえる」という言い方は、愛嬌たっぷりで、これだけで交渉はだいぶ進展するのではないでしょうか? 野田佳彦首相も、一党員と話をするのに、なにも乾坤一擲(けんこんいってき)だなどと力まずに、「ソフトリ-、ソフトリー、キャッチング・ア・モンキー」の心境で臨めばよかったのです。しかしその本音が事前に洩れれば、小沢一郎さんは「俺をモンキー扱いするのか!」と怒ったでしょう。どうも粋で洒落や冗談を解する人が減っていることが、閉塞感を生み日本の低迷につながっているように思えてなりません。

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COMMENTS

1 : 悠々 : June 7, 2012 11:10 AM

「ザ・タイムズ」に働いていたPさんという方の活躍の様子は、楽しく読ませていただきました。
アメリカ議会では、Pさんのような個人プレイではなく、アルコール業界ロビーストスポークスマン、銃器業界ロービーストスポークスマン、タバコ業界ロビースト団体スポークスマン、自動車製造団体、等々、各業界がロービーストに莫大な報酬を支払って、議会工作をしているそうです。
日本の議員さんには業界の為に「粉骨砕身」されている人が居るようですが(野田さんを見習って看護を使ってみました。)Pさんのような「猿獲り名人」は居ないのでしょうね。

2 : 湖の騎士 : June 7, 2012 01:56 PM

悠々様 コメントありがとうございます。このPさんという方は、いわゆる「キャリア組」ではなく、エーリトコースとは縁遠い人でした。下積みの仕事を黙々とこなし、なんともいえぬ味のある存在でした。しかし組織はこういう人を必要としているのです。彼の「猿獲り名言」は、あるいは英国では誰でも使っている表現なのかも知れません。猿に引っ掻かれないように、逃げられないように、そろりそろりと近づいてゆくというのが根回しの神髄(?)なのでしょうね。この猿獲り理論をアメリカのロビイストと結びつける発想は面白いです。ロビイストは猿を一匹つかまえると巨額の報酬が得られますが、Pさんの場合はすべて給料の内でした。それでも彼は自分の天職に誇りを持ち、いつも穏やかな笑みを浮かべていました。