View of the World - Masuhiko Hirobuchi

July 24, 2012

尖閣諸島所有主の弟は穏やかな常識人 -

去る20日(金曜)に尖閣諸島の持ち主の弟である栗原弘行氏が日本外国特派員協会で会見しました。在京のテレビ局はNHKとテレビ東京を除く(予約段階での調べ)5社がカメラ取材を行い、ロイター、ブルームバーグ、NYタイムズなど世界的に有名な報道機関の特派員も出席し、香港や台湾のメディアの特派員(ほとんどが女性)も活発に質問をしました。全体で80人を越す盛況でした(私の印象では100人超)。ところが翌日の新聞紙面を見ると、扱いはきわめて小さく、写真も出ていず、会見の要旨がお義理のように載っているだけでした。朝日などは社会面のひとつ前のページで数行の扱いでした。私には非常に価値のある会見でしたので、会場で感じたことをそのままお伝えしたいと思います。まず栗原さん(65歳)は「穏やかな常識人」だということです。けっしてかたくななナショナリストではありません。「兄はもう70歳であと5年くらいしか生きられないと思う」と語りました。その言い方に巧まざるユーモアがありました。会場には70を越したベテラン記者もいましたので、「おいおい、俺はどうなるんだ」というつぶやきも聞こえました。「兄は40年間もあの島々を維持してきた。維持することにだいぶ疲れてきたので、生きているうちに信頼できる人に譲りたいと思っていた。企業には売るつもりはない。そこへ東京都からのアプローチがあった」とのことでした。妹さんも二島の所有者であることを付け加えました。栗原さんは、今回の動きが国家間の問題として取り上げられていることに憂慮を示し、「あの島々の周囲は水産資源も豊富で、たとえば台湾の船が漁をしたりする日のことも考えている」とのことでした。「島嶼(とうしょ)経済学」という言葉がありますが、ご存知ですか? と記者団に問いかけ(残念ながらだれも知らないようでした)、ひとつの孤島だけでは経済は成り立たないが、いくつかの島を結ぶ航路や漁業活動が活発になれば、経済的に自立できるものだとの認識を示しました。ほとんどの日本人も中国人も、「尖閣」というと日中間の一触即発の危険地帯であり、ここを所有し東京都に売ることで摩擦をさらに大きくしている栗原一族というのは、タカ派の危険な人々だというイメージを持っているのではないでしょうか? しかし、この会見に臨んだ栗原弘行氏は、けっしてそんな人ではありません。心からあの地域の平和を願い、語ることの内容も世界に通じる説得力を持った「穏やかな常識人」です。実務家であり、理念や観念が上滑りする人でもありませんでした。あの地域が平和で豊饒の海であってほしいとの願いが、言葉の端々に滲み出た会見でした。情緒的な報道はいただけませんが、日本のメディアはもっとこうした「人間味」も伝えるべきだと思います。

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COMMENTS

1 : 悠々 : July 25, 2012 05:10 AM

私は朝日の記事を見逃していました。
そうゆう事があったのなら、写真はご本人への配慮で省くとしても、もう少し大きく扱って然るべきだと思います。
先生の御記事で、知る事が出来よかったです。
暑い中、取材お疲れ様でした。

2 : 湖の騎士 : July 25, 2012 09:49 AM

悠々様 コメントありがとうございます。この記事はもっと早く書くべきでしたが、いろいろな事情でもたついていました。ここに書いたような感想は、おそらく政府要人やマスコミの大幹部には伝わっていないと思います。「都に売るか国に売るか」「島への上陸を認めるのか認めないのか」といった話ばかりで、「島嶼経済学」などという思想が栗原氏の口から語られたなどということは、ほぼ誰も知らないのではないでしょうか。私の記事がお役に立てたようで、たいへん嬉しいです。猛暑の気配です。熱中症にお気をつけください。

3 : 泥田の落ち武者 : July 29, 2012 01:14 AM

湖の騎士様、

「島嶼経済学」なる言葉は私も初めて聞きまして、成程と目を開かされた思いです。

私は市井の人間として、安全保障を学んでいるものですが、太平洋戦争における「島嶼防衛」の教訓は、以下に尽きると思います。

① 事前の十分なる戦力配備と防御陣地の築城工事
② 敵上陸部隊を拒止出来る海上戦力と、航空戦力の展  開
③ 必要に応じ、島嶼に増援を送りえる体制と部隊の整  備
④ 事前に敵軍の動静を把握出来る偵察・情報体制

しかし、最も効果的で安価な防備方法は、先島諸島の国際的リゾート化と、尖閣列島のその中への組み込みかも知れませんね。(偵察、情報体制の確立は大前提ですが。)

4 : 泥田の落ち武者 : July 29, 2012 01:18 AM

すいません、一つ書き落していました。

更に前提として、沖縄本島から迅速に戦力を展開できる体制・戦備の整備。(即ち、オスプリ-の早急なる配備)

5 : 湖の騎士 : July 29, 2012 07:03 AM

泥田の落ち武者様 貴重なコメントをありがとうございます。日本人はさかんに先の戦争を反省しますが、それは道徳的な面ばかりで、なぜあの戦争に敗れたのかについては、ほとんど反省も研究もしていません。「歴史から学ばない民だ」と言われてもしようがないでしょう。今回いただいたご意見のような「理性的な思考」ができないところが、日本の大弱点です。戦争を起こさないためには、冷徹な計算と具体的な備えが必要です。祈ってさえいれば平和が来ると思う「情緒主義」は、本当に危険です。