View of the World - Masuhiko Hirobuchi

February 06, 2013

「月の砂漠」のロマンと現実 -

先日の講演で中東と日中関係を中心に今年の見通しを話しました。その際に、「日本人は『月の砂漠』というあまりにも美しい歌の影響を受けすぎて、中東の現実が見えなくなっているのではないか?」と言いました。月の砂漠を旅のラクダが行きます。金と銀の鞍を置いたラクダに乗って、月光に照らされた砂の上を、王子さまとお姫さまが通って行きます。この光景は、まことに美しくロマンティックです。しかし、いくら従者がたくさんついているとはいえ、男女の戒律がきわめて厳しいアラブやペルシャ(イラン)で、未婚の王子と姫がラクダに乗って旅をするということが現実にありうるのかどうか? そんなことを言い出せば、歌も物語も成り立ちません。しかし野暮は百も承知で、こういう疑問を抱く人間がふえた方が、日本にとっては有益だと思います。私たちは、あまりにも他国を日本の基準で見過ぎています。イスラム過激派のテロリストが日本人を含む人質を取った先般の事件で、アルジェリア政府があまりにも早くアクションを起こしすぎたのではないか、と多くの日本人は思いました。日本人の感覚ではたしかにこの行動は早すぎ、もっと時間をかけて話し合うべきでした。しかし、これが苛酷なアラブの現実なのだ、と思い知らされ、「日本流の価値観がどこでも通用すると思うのは間違いだ」という痛切な思いを噛みしめた人も多かったと思います。「他人の井戸の水を盗んで飲んだ者は、即座に射ち殺されても仕方がない」というのも、砂漠に生きる者たちの掟であり現実です。「月の砂漠」のロマンは、子供の感性を養うにはよいでしょうが、大人はそろそろ「現実」に目覚めて世界を見る習慣をつけたいものです。

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COMMENTS

1 : 悠々 : February 8, 2013 08:49 AM

私もアルジェリア政府の素早い反撃は仕方なかったと思っていました。
日本にいて、いろんなことを言うのは現地の実情を理解していないからだと思いました。
じっくり交渉などしていればテロは拡大するばかりで、さらなる被害が発生します。犠牲者が出るのは覚悟の上でテロリストは容赦なく殲滅する、という事が必要だったのです。
アルジェリアは内戦中なのですから平和な国にいて日本の理論を通用させるのは無理というものです。
私の知人がアルジェで仕事をしているので、早速お見舞いの電話をしたら、事件現場とは1300km離れているから大丈夫だ、というお答えでした。でもフランスにいる奥さんも心配しているから近々フランスに帰るつもりだということでした。
今年の旅ではフランスで彼に会えるかもしれません。
私は彼と電話で無事を確認下ということだけで、北アフリカの現実に少しは理解が深まったと感じました。

2 : 湖の騎士 : February 8, 2013 10:21 AM

悠々様 コメントありがとうございます。今回のアルジェリア事件で、社員10人の死亡が確認された直後の日揮社長の記者会見で、冒頭質問をしたTBSの記者が「アルジェリア政府の行動をどう思うか?」と聞きました。これは明らかに「アクションが早すぎた。もっと慎重に犯人側と話し合ってほしかった」という答えを引き出そうとしての質問でした。しかし日揮の社長はそんな誘導には乗りませんでした。アルジェリア政府を非難すれば、現在受けている注文も将来の注文も来なくなることは明白です。アルジェリア政府の対応を批判するようなコメントは出てくるはずがないのです。しかしこの記者は、自分たち記者仲間の価値観に基づいて、こういう愚かな質問をしたのでした。日本人の感覚がいかに国際社会の常識とずれているかの見本です。悠々様がアルジェにいるご友人の安否を気遣って電話をされたというのは立派です。中東にいる友と直接つながりを持ち、電話までかける日本人は少ないでしょう。よいお話をうかがい心あたたまる思いです。