View of the World - Masuhiko Hirobuchi

July 21, 2013

キャサリンとカチューシャ -

世界はテロ、内戦、金融危機、不況、失業などで苦しんでいる地域が多いというのに、イギリスにはロイヤルベイビー誕生を報道しようとするカメラマンや記者が世界中から集まっています。世界の苦悩とロイヤルベイビーの誕生とは、また別物なのでしょう。ウィリアム王子と妻のキャサリン妃の子供は、生まれる前から世界の祝福を浴びているようです。ところで全く違う話。キャサリンという名前が、ほぼヨーロッパパ全域で使われていることにお気づきでしょうか? フランスではカトリーヌ、イタリアではカテリーナというふうに、東へ東へと移動するにつれて、少しずつ発音が違ってくるのは当たり前ですが、歴史をひもとくまでもなく、この名前をもつ有名人はたくさんいます。ヨーロッパのかなり東のブルガリアではカテリナですがさらに東のロシアではエカチェリーナです。エカチェリーナ(エカテリ-ナ)2世という女帝がいたことはご存じの方も多いと思います。このブルガリアのカテリナ、ロシアのエカチェリーナがともに愛称では「カチューシャ」となることは、日本ではあまり知られていません。私は偶然に日本にいるカテリナ・マルコバさん(日本語の上手な方)の本でそのことを知りました。日本でカチューシャというと、戦前の教育を受けた方はレフ・トルストイ原作の小説『復活』のヒロインを思い浮かべられるでしょう。大正初期に上演された戯曲の中で松井須磨子が歌った「カチューシャの唄」が有名です。「カフーシャかわいや別れのつらさーー」というあれです。戦後教育の方々は、歌声喫茶などで歌われた「リンゴの花ほころび、川面に霞立ちーー」と始まる「カチューシャの歌」(1942年作曲)がおなじみだと思います。ここで言いたいことは、日本人の圧倒的多数が、カチューシャという名前を聞いて「ロシアにいる特定の女性のみを思い浮かべる」傾向を持っていること。それを少し直してみませんか、ということです。この名を持つ女性は西のキャサリンから東のカチューシャまで、ヨーロッパには何百万人もいるということを頭に入れておくだけで、あなたの世界はぐっと広くなります。世界がより立体的にはっきりと見えてきます。さらにこの名前の女性はカナダ、アメリカ合衆国、メキシコ以南の中南米諸国にも何十万・何百万人もいるのです。そういうことを考えつつ、ロイヤルベイービーの誕生を待つというのも楽しいではありませんか。

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COMMENTS

1 : 悠々 : July 22, 2013 06:09 PM

最近のニュースは国内も国外も明るい話題はあまり見当たりません。
暗い、悲惨なニュースばかりでは書く方も見る方も堪りませんから
ロイヤルベビーの誕生は間違いなく明るいニュースですから各国から取材陣が押し寄せるのも理解できます。
でもお母さんになる方は異常な報道体制を恐れてご実家に籠もっておいでのようです。そのお気持ちも分かりますね。
キャサリンとカチューシャ のお話はとても良かったです。
先生の博識には脱帽です。
またこの類いのお話を聞かせてください。

2 : M.H. : July 23, 2013 12:37 AM

読ませていただいて、婚約時代にはケイトと呼ばれていたけれど、ウェディングを機にキャサリン妃と変わったことを思い出しました。愛称から敬称へ切り替えは当然の礼儀であることを改めて納得しました。
アメリカでは台風の名にも使われるそうで、ハリケーン・カトリーナの甚大な被害はまだ記憶に残っています。世界各国のキャサリン・カチューシャ嬢達に失礼なようにも感じますが。
正式名を呼びやすく短くして親しみをこめるのが愛称ですが、省略の仕方もいろいろですね。エリザベスがリズになったりベスになったり。ドイツ語では、マルガレーテがファウストではグレートヒェン、童話「お菓子の家」ではグレーテル。兄のヘンゼルの本名はハンス(HANS)で、ウムラウトで変母音してelをつけた愛称だと知ったときはカルチャーショックでした!子供の頃に親しんだ童話がまた違った輝きを放ちます。
ご一緒に楽しく考えを巡らせることができました。

3 : 湖の騎士 : July 23, 2013 11:16 AM

悠々様 コメントありがとうございます。世界には心を滅入らせるニュースが多いので、ロイヤルベイビー誕生という明るいニュースに人々(メディア)の関心が集まるというご指摘はまさにその通りだと思います。昨夜(22日)は、「今にもベイビー誕生のニュースが飛び込んでくるのでは」と期待して9時半以降の全チャンネルを観ていましたが発表はなく、今朝になって男子誕生を知りました。キャサリン(キャシー、ケイト)という非常に多い名前と、日本人には「特定の少数(個人)」と見られているカチューシャ(カーチャ、エカチェリーナ)を結びつけたこの記事をお楽しみいただけて、本当に嬉しいです。

4 : 湖の騎士 : July 23, 2013 11:32 AM

M.H.様 コメントありがとうございます。欧米人のファーストネームはいろいろなことを考えさせます。名前を付ける親や祖父母、さらにはゴッドファーザーやゴッドマザーがどういう思いでどういう名前を付けるのかを考えるだけでも、一定の生活圏、文化圏、そして宗教的背景が浮かび上がってきます。さすがドイツ語にお詳しくて、名作童話や戯曲の中の主人公たちの名前の変化をお知らせいただき、大変参考になりました。グレーテルと「ファウスト」のマルガレーテが同じ名前だとまでは考えが及びませんでした。想像力に翼を付けて下さり、本当にありがとうございました。