View of the World - Masuhiko Hirobuchi

February 05, 2015

テロの原因は「貧困」・先進国にも責任ーーという俗論 -

「中東やアフリカの国々で、テロを生み出すのは『貧困』であり、社会的な格差だ。これらの諸国は『失敗国家』と呼ばれている。(欧米の)先進各国はこれらの国に長年援助をしてきたが、うまく行っていない。その点で先進国もまた『失敗国家』と言えるのではないか」(2月2日、NHKテレビ「ニュースウォッチ9」での太勇二郎記者のコメントの大意)。これを聞いたとき、私は「ああ、またしてもワンパターンの先進国批判か!」と思いました。「イスラム国」をめぐる報道が加熱し、コメンテーターたちは「何か気の利いたことを言わねばならぬ」という思い込みを抱いています。しかしもともと中東について、ほとんど何にも知らないのですから、そんなコメントができるわけがありません。そこで職場の先輩や上司が喜びそうな、「手垢のついた欧米批判」を口にすることで、なんとか格好をつけようとします。こうした凡庸の極みのようなコメントがあふれかえっているのが、今の日本のマスコミの状況です。前述のNHKコメントですが、中東やアフリカの「失敗国家」に対して先進諸国は過去40年も50年も一体どれほどの経済援助をしてきたと思っているのか、と言いたいです。それでも治安も経済もうまく行かないのは、先進国のせいなのか? と聞きたい。端的に言って、万事がうまく行かないのは、それらの国のトップ(首脳)が国を運営(経営)してゆく能力がないからではないのかと考えるべきでしょう。トップの人間的なフェアさの欠如。マネジメント能力の不足。腐敗堕落(援助金を横領して私腹を肥やす)。ネポティズム(縁故者重用主義)の横行。行政機構の不整備。部族中心の支配構造など、いくら外国が金をつぎ込んでもうまく行かない原因は多々あります。しかしこれらの国の為政者は、反省もせず、かつてのように他国に支配されることを好まず、独立を大義名分にして、我流の政治をやっているのが現状です。援助している国々は、もっと国の運営に口を挟みたくても挟めないのです。世界にはこの地域以外に「貧しい国」はたくさんあります。外国からの援助を得て、国が徐々に近代化し、国民は清廉でフェアな為政者の姿を見て国造りに励んでいる所もあります。そういう国や地域ではテロは生まれていません。「テロが生まれるのは『貧困』のためであり、先進国にも責任がある」というのは、反欧米的な思想を代弁しています。「貧困とテロが生まれるのは、指導者の国家経営力の不足によるものだ」と見る方が真実に近いと思います。

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COMMENTS

1 : 悠々 : February 8, 2015 01:45 PM

2月2日のNHKテレビ「ニュースウォッチ9」は見ていませんでしたが、大方の論旨は推量出来ます。
確かに現状の中東やアフリカの指導者たちは国家経営に長じているとは言い難いと思います。
しかし、私はそのような指導者を育てたのは嘗ての列強の国々が争って中東やアフリカに群がって権益を求め植民地化し、それらの国の権力者に甘い汁を吸わせて来た事が遠因になっていると考えます。中東やアフリカの地図を見ると、国境線が直線で区切られている場所が多々あります。これは地形や人種、部族などの区分を無視して機械的に列強が植民地を分捕ったからです。
こられの地域の権力者に密の味を覚えさせたのは列強諸国です。
そういう意味では先進国にも責任があるといえるのではないでしょうか。

2 : Sako : February 8, 2015 06:40 PM

先生のご意見に賛同します。貧困国全てがテロリストの拠点になっていないのは明らかです。
ただ最近は、テロリストよりアサドやフセイン、カダフィの方が随分ましだと考える様になりました。
暴論かもしれませんが、部族が強い地域ではナショナリズムが育ちにくい為、強権的独裁者の統治の方が国家のまとまりがあります。イラクを見ていると、彼らに民主主義は不可能ではないかと思います。
カダフィにインタビューされた先生のご意見を伺いたいです。

3 : 泥田の落武者 : February 8, 2015 07:41 PM

湖の騎士様、

テロと貧困・・・・・・・・
関係があるかないかと言われれば、少し位はあるでしょう。

ですが「失敗国家」を見てみると、アフガニスタンは元々、失敗国家などでは無く、ソ連侵攻後に社会インフラから何から何まで破壊され、失敗国家になりました。パキスタンはその巻き添えを食ったという所でしょうか?

イラクは湾岸戦争と、特にイラク戦争後の混乱で「失敗国家」の仲間入りをしましたが、その前は独裁ではありますが、バース党政権下で比較的安定した統治が行われて来ました。

シリア、イエメン、リビア、アルジェリア(?)、エジプト(??)は所謂「アラブの春」でぐちゃぐちゃになりましたが、それまでは彼らも比較的安定していたと言えるでしょう。

それら以外の国々はもとから「ぐちゃぐちゃ」か、ソマリアの様にソ連崩壊後に「ぐちゃぐちゃ」になったか、「アラブの春」の巻き添えで悪化したかでしょう(リビア崩壊後の西アフリカ諸国等)。

さらに言うならば、現在の中東の混乱の重要な対立軸は、「西欧・イスラム」だけではなく、「スンナ派・シーア派」という対立軸も忘れることは出来ませんし、シーア派を積極的に支援しているのはイランです。

従来の中東の紛争は「イスラエル」への対応と、米ソの代理戦争というものが軸でしたが、上記の対立軸への移行は重要な変化かと。(「中東戦争」を忘れている報道の方が多い様な気が)

さらに貧困層が過激派の温床になっているのは事実でしょうが、彼らを資金的に支援しているのはイスラム社会の富裕層(サウジの王族等)や、イラン・カタールの様な産油国でもあります。

「貧困も一因」というのはそうかも知れませんが、ある意味もとから「貧乏」な地域と言えば地域であり(人口の大半が貧乏人)、それ以上に、宗派の勢力争い、民族・部族の利権争い、地域国家同士の対立といった、生臭い所が本当の背景であり、紛争の要因であり、それにイスラムの皮を被せているのが実情では??
(EU・米国等でのテロは別として)

ただ、ヨーロッパも日本も、さんざ域内でドンパチやって来た訳で、それらの先に国境や、統治制度が確立され安定した訳であり、それらの流血・犠牲・闘争無くしては、現在の繁栄・安定はあり得ないと考えます。

今起きている事態は悲劇です。ですが、日本の戦国時代にどれだけの殺戮・破壊が行われたでしょう???ヨーロッパの宗教戦争はどれ程、悲惨だったでしょう???我々が「進歩している」という自惚れなどで無く、我が身を振り返れば、ほんの400年前には同じような状態だった、という視点もまた重要では????

4 : 湖の騎士 : February 8, 2015 09:42 PM

悠々様 コメントありがとうございます。現在のテロ発生に関して、「先進国にも責任がある」と言う方は、大体マスコミ報道や授業・書物などによって知識を得た人々が多いようです。活字や音声によって得た情報はえてして「観念的」「抽象的」になりがちです。これに反して「国のトップや中堅層に近代国家を運営してゆく能力がない」と見る人々は、「自ら現地へ行き、現地人と一緒に仕事をし、さんざ痛い目に会った人々」です。非常に具体的な経験を持ち、理想化や抽象化をしないだけ、物事の本質がよく見えています。早い話が、住民の生活をよくするために、現地で水道を引いたりして支援をしても、それを維持・管理する能力がない人々が多いことを痛感しています。曽野綾子氏のお書きになったものは、これらの地域へ自ら赴いて過去何十年も献身的活動を続けてきた経験を紹介しています。冷暖房のきいた書斎にいて、文献だけを読み、学生に誤った中東・アフリカ観を植え付けている人々とは、説得力がまったく違います。

5 : 湖の騎士 : February 9, 2015 10:36 AM

Sako様 コメントありがとうございます。最近では、お寄せいただいたご意見に同感する人がふえています。その元祖(?)ともいうべき人は、高山正之さんです。「週刊新潮」の巻末に「変見自在」という1ページコラムを14年間書き続けている人です。この方の『サダム・フセインは偉かった』という本はなんらかのご参考になると思います。ジョージ・W・ブッシュは、人間的幅と奥行きに欠けたために、サダムを殺してしまいました。あとを継いだオバマもまた単細胞ゆえにイラクから撤兵してしまい、これが「イスラム国」を誕生させてしまいました。国際政治をあずかる人間は、もっと「苦労人」でなければなりません。カダフィについての私の意見は拙著『頭にちょっと風穴を』(新潮社)に「カダフィが拭った汗」と題して収録してあります。彼は欧米では「残酷な独裁者」と見られていますが、中東における「力学」を知っていました。人情味もある男でした。少なくとも「闇愚」ではありませんでした。レーガンを兄のように慕っていたと私は見ました。彼を殺したのはアメリカの大失敗です。

6 : 湖の騎士 : February 9, 2015 11:01 AM

泥田の落武者様 貴重なコメントをありがとうございます。テレビで意見を言う人よりもよほど広く物事を見ておられる気がします。日本のマスコミは「好きか嫌いか」の感情で、国家や人物を伝えすぎています。アメリカ・西欧諸国(主に英仏)・イスラエルは「悪」とされ、パレスティナや他のアラブ諸国は前者の犠牲となった「同情すべき国」という仕分けです。こんな硬直した世界観で物を見ていたのでは、真実を伝えることなどできません。こうした思い込みを直す作業はたいへんですが、だれかが地道に彼らの「ステレオタイプぶり」を指摘し続けるしかありません。「みるとす」という隔月誌の2月号に滝川義人という方が、日本の「中東通」を自称する学者がいかに物を知らないか。また誤謬にみちた彼のコメントの誤りを正そうともしないNHK「クローズアップ現代」の国谷裕子キャスターもいかに勉強不足かを指摘しておられます。店頭では売っていない雑誌ですが、一度入手されることをお勧めします。この出版社の電話は(03)3288-2200です。

7 : 泥田の落武者 : February 10, 2015 03:04 PM

湖の騎士様、

「みるとす」のご紹介、誠に有難うございます。

ハマースの実態として、数百発のロケット弾を「輸入」或いはガザで「製造」して保有しているという事実や、その中には射程100kmを超えるものもあるという点は、決して報道されません。

また、本来なら上下水道の整備に供せられるべき労力が、イスラエルへの攻撃用トンネルや、ハマースの幹部の避難用トンネル、その他軍事用地下施設に利用されている。

さらには幹部の中には国外の5つ星ホテルで生活している者や、不正蓄財を疑われている者もいるという話は絶対に報道されませんね。

軍事系の専門誌にはそのような記事が出てきますが、普通のメディアは「ガザが可哀相」一点張りです。しかし、なぜ「可哀相」な状況にあるのかも報道して欲しいと思うのですが・・・


8 : 湖の騎士 : February 10, 2015 03:25 PM

泥田の落武者様 「みるとす}誌に興味を示していただきありがとうございます。非常に貴重な情報源です。パレスティナの実態は日本のメディアにはまず載りません。「空気による社内検閲」とでもいったものがあるようです。古くはPLO(パレスティナ解放機構)のアラファト議長の時代から、彼の実像は伝えられませんでした。彼は邦貨換算で60億円とも70億円ともいわれる不正蓄財をし、彼の死後に妻がそれにしがみついて、「組織(PLO)には一文も渡そうとしなかったことなどは、ほとんどの日本人は知らないでしょう。パレスティナは常に「善玉」で被害者、イスラエルは常に「悪玉」で加害者という単純きわまりない図式しか頭に浮かばない者たちが、中東を論じ世界を論じている日本は本当に危険です。